いよいよバトルの決勝戦です。ここから入った方はこちらを。バトルのサイトはこちら。
決勝戦に残ったのはどちらも「児童書」のステレオタイプから外れた作品。
The Astonishing Life of Octavian Nothingは典型的な人種差別ではなく、さらに深い人間の心の闇も描いた問題作です。黒人少年Octavianは、独立戦争時代のボストンで裕福な知識人に育てられますが、実は自分が実験材料であり囚われの身であることを悟ります。天然痘の予防的種痘のThe Pox Partyでアフリカのプリンセスであった母が亡くなり逃亡するものの、捕らえられて鉄の仮面をかぶらされます。そこからの逃亡を描いた第一巻The Pox Partyは2006年にNational Book Awardを受賞し、読者層は大人まで広がりました。
そして、今回候補になった第二巻・完結編のThe Kingdom on the Wavesでは、Octavianは奴隷の地位から開放されるためにアメリカ独立軍ではなく、英国軍のために闘います。黒人に人権を約束したのはアメリカ軍ではなく英国軍だったというのは、私が直接黒人の知人から聞いた歴史的事実なのです。
The Hunger Gamesのほうは昨日書評を書きましたので、そちらをごらんください。
決勝の審判も傑作です。なんたって、あの児童書界の重鎮Lois Lowryなんですから。
児童書作家というとふつうSara Pennypackerのような優しくて暖かいタイプを想像しますよね。そんな心構えでLowry本人に会うと、彼女のドライでシニカルなユーモアのセンスにびっくりします。子供はみんな愛らしくて、天使のように純粋、とは思っていないのです。そういう彼女だからこそ面白い児童書が書けるのでしょう(また、小学校の教師にもくだらない奴が多いと思っている様子)。
Lowryのバトル評価がまた傑作です。全部訳して差し上げられないのが残念なくらい。ぜひ原文をお読みください。
まずはバトルにノミネートされたすべての本をGoldでWinnerだと普通に褒めたうえで、「これらの本全部について書いたのが自分だったらよかったのに、と思った。私の本が候補に入っていないのはムカつくし(pissed)、候補の作家全員に猛烈に嫉妬している」と彼女らしい屈折した賞賛の言葉を与えています。
どうせ選択基準がないBattle of the (Kids') Booksなのだから、とLowryは判定基準についてこのように述べています。「Maturely, I am basing my decision solely on petulance, vengeance, reverse nepotism, and payola(円熟した大人として、私は純粋に憤懣、復讐心、逆びいき、賄賂に基づいて判定することにする).」
まずの憤懣の点では、Tender Morselsが早々に敗退してしまったことに「この2週間ずっとくさっていた」と告白し、逆びいきの点では、Octavianの作者M.T. Andersonについて「M.T. Andersonは背が高くて、痩せていて、感じの良い人。もし彼が背が低くて、ずんぐりで、馬鹿で、気に障る奴だったら、慈善として賞を与えただろう」、そして「もしくは、価値のあるものをくれていたら賞をやったかもしれないが、一度中華料理店の前でばったり出会ったときに、フォーチューン・クッキーのひとつもくれなかった」とぼやいています。
ともあれどれもLowryならではのシニカルなユーモア。結論は、「Any book that starts out with 24 children and ends up with 22 of them dead----(one of them eaten alive by canines. I bet he was a very, ah, Tender Morsel)---that’s tough to beat」ということで、
School Library Journalによる2008年に出版された最も優れた児童書を決めるBattle of the (Kids') Booksの勝者はこれ、
The Hunger Games!
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