著者:Gabrielle Zevin
ハードカバー: 260ページ
出版社: Algonquin Books (2014/04)
ISBN-10: 1616203218
発売日: 2014/04
適正年齢:PG15(高校生以上)
難易度:中級〜上級レベル
ジャンル:現代小説/ラブストーリー/ミステリ
キーワード:書店、本、ブッククラブ、ロマンス、友情、人情、人生
「これを読まずして年は越せないで賞」候補作(渡辺)
アメリカの東海岸に浮かぶ小さな島「Alice Island」(ナンタケット島をモデルにした架空の島)には、書店がたった1店しかない。そのIsland Booksの店主A.J.Fikryは、交通事故で妻を亡くしてから何ごとにも興味を失っていた。もともと人見知りなところがあったが、ますます偏屈になり、店の経営は悪化していた。そこに、ロードアイランド州の小さな出版社から営業担当者Ameliaが訪れる。前任者の急死でIsland Booksを引き継いだAmeliaは、長旅の価値があるかどうか疑いつつも訪問したのだが、A.J.から失礼な対応をされて憤慨して島を去った。
Ameliaの訪問直後に、A.J.が持っていたエドガー・アラン・ポーの詩集の初版が姿を消した。売れば百万ドルにもなる可能性がある非常に価値がある古書である。そのショックから立ち直る暇もなく、A.J.の書店に2歳の少女Mayaが置き去りにされた。そして、翌日赤ん坊の母親らしき若い女性の死体が海で見つかった。人間嫌いで、子どもも嫌いだったはずのA.J.だが、Mayaをなぜか見捨てることができず、引き取って育てることにする。
登場人物だけでなく、登場する書籍の数々が楽しい本である。
A.J.やAmeliaのそれぞれのジャンルや本に対する評価や、登場人物たちの好みの本、ブッククラブの選択本とかを読むたびに吹き出してしまう。たとえば、閉店後の時間に客の老女が憤慨しながらやってきて「私はあなたに怒っているのよ。昨日あなたが勧めた本は、82年の私の生涯で読んだ中で最悪だったわ。お金返してちょうだい」と請求する場面では、「82歳の私に『死』がナレーターの552ページもある分厚い本を薦めるなんて無神経だわ!」という台詞で「あ、あの本のことだ!」とわかる。そして、その後に続く会話に「こういう客いるいる!」と笑ってしまう。こういうところが、まるで本好きの友だちと語り合っているような感じなのだ。
A.J.とAmeliaを近づける役割を果たす自伝(作者Zevinの創作)とその著者の関係、消えたポーの本、Mayaの生誕の謎といったミステリの要素もあり、オンラインのデートサイトでデートの相手をみつけては失望を繰り返すAmeliaと偏屈だが優しさもあるA.J.との静かなロマンスもある。友情、家族愛などいろんな要素があり、決して飽きない。
全体に漂っている人へのポジティブな視点も魅力的で、そのせいかMr. Penumbra's 24-Hour Bookstoreを思い出した。
本や書店が好きで、暖かい気持ちになりたい人におすすめの本。
blancasさん、
たしかにStation Elevenは新興宗教の部分、どっと嫌になりますよね。ほんとにディストピア。
ご指摘のとおり、A.J. Fikryは Mr. Penumbara's と共通した人間への温かい眼差しがあります。たぶん、私たち審査員の好みがそれなんでしょうねw
引っ越しを控えてなるべく紙媒体を買わないようにしている私なので、Kindle版で読んじゃいましたけれど、A.J.には許していただくことにします。
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2015/01/06 06:44
最初に衝突するA.J.とAmeliaのロマンスは王道路線そのものですが、直前が”Station Eleven”で鬱々となってたところ(特に新興宗教部分で座礁、Kindle 90%で未了)、こんなHappy & Heart warmingで良いのかと一瞬思ったものの、久しぶりにほのぼのと気分転換できました。
確かに紙媒体への愛着、結末のポジティブさ、“Mr. Penumbra's 24-Hour Bookstore”と似通った雰囲気を感じます。又、e-Readerへの触れ方の違いも面白いと感じました。巻末の対談部分で、e-Readerで読んだ内容は忘れ易いという指摘がありましたが、インクの臭い、紙の香りが読後感をより記憶に定着させるのかとも想像してしまいました。
投稿情報: blancas | 2015/01/06 06:38