著者:Ann Leckie
ペーパーバック: 400ページ
出版社: Orbit
ISBN-10: 0316246654
発売日: 2014/10/7
適正年齢:PG12(性的関係についての話題はあるが、シーンはない)
難易度:上級レベル(ただし、第一巻に比べて非常に読みやすい。シンプルな文章)
ジャンル:SF
キーワード:スペースオペラ(昔の感覚ではなく)、宇宙船、帝国、闘い、植民地政策、公正
シリーズ(三部作)名:Imperial Radch
Hugo, Nebula, British Science Fiction, Locus、Arthur C. Clarke賞...とSFの代表的な賞を総なめしたAncillary Justiceの第二巻。
銀河系宇宙の惑星を次々に支配下に置いたRadch帝国では、civilized(従来の宗教や文化を捨ててRadch帝国の宗教、文化、慣習、法規を受け入れること)した者は「citizen」として平等の権利を持つという建前がある。しかし、建前の背後には必ずinjustice(不正、不当)があるものだ。
Radch帝国の宇宙船にはAIの頭脳があり、その手足として働く数多くのAncillaryが付属している。このAncillaryは、何らかの理由で捕えられた人間から人間性を奪い取ってAIを差し替えたロボットのような存在である。通常の兵士よりも肉体的に優れていて、命令に従い、効率よく働くので、重宝されてきた。Ancillaryは個々で存在するのではなく、それぞれが船の一部なのである。個体のAncillaryが見聞きすることは、船のAIを含めて全員のAncillaryが体験し、記憶する。
新たにFleet captain(宇宙戦艦だけでなく、艦隊全部の指導者)に任命されたBreq Mianaaiは、かつて宇宙船「Justice of Toren」であり、Ancillaryの1個体だった。
Radch帝国で神に近い絶対の権力を持つ支配者Anaander Mianaaiの命令で「Justice of Toren」は愛する士官を自らの手で殺害せざるを得なくなり、自らも破壊された。たった一体だかが生き延びたAncillaryのBreqはAnaander Mianaaiへの復讐を誓うが、それを果たす過程で知ったのはAnaander Mianaaiのクローン同士が内戦をしていたということだった。
Justice of Torenを破壊したAnaanderに対抗する別の勢力であるAnaanderは、BreqをMercy of Kalrsという宇宙船の船長、そして艦隊の指導者に任命するが、Breqはそこに何らかの隠された意図を嗅ぎとっていた。
どのAnaanderも、絶対の信頼には値しない存在だからだ。
Breqが唯一引き受けた任務は、かつて愛したJustice of Torenの士官の妹が住む惑星の保護だった。
帝国のお茶の生産で有名なその惑星でも、表層には現れないinjusticeがあった。
第一巻のAncillary Justiceは非常に難解で、上記で説明したようなことが見えてくるまでには時間がかかる。けれども、努力をする甲斐がある名作だ。
第二巻のAncillary Swordは、その努力が報われて非常に読みやすくなる。それで「つまらなくなった」「がっかりした」という感想を抱く読者もいるようだが、私はそうは思わない。
Swordでは、植民地化の問題や社会問題なども盛り込まれていて、異なる民族との不可思議な会話とその背後にある意図など、読んでいてちっとも飽きない。また、人間以上に人間理解や慈悲、共感があるのに、やはり根本的なところで人間ではないBreqの思考回路や戸惑いが絶妙な快感なのだ。
通常三部作だと「どう完結するのか早く読みたい!」と思うものだが、この三部作に限って言えば「ずっと続いていってほしい」と思ってしまった。それくらいBreqの思考を追うのが楽しい。
ところで、著者のAnn Leckieがファンアート(ファンが描いた登場人物のイラスト)をブログで紹介していが、そのうちのひとつが私の娘のものなので、ご興味あればぜひどうぞ。
第一巻を読んだときから娘に「これは絶対に貴方の気に入るはずだから、読め、読め」と言い続けてきたのだけれど、あちらも忙しくてなかなか手に取れなかったらしい。数ヶ月経ってから、突然「読んだ。すごく面白かった。これまでマミーの推薦が間違ったことはなかったのだから、もっと早く読むべきだった」というメールが来た。
こうやってファンを広めていくのも快感なので、まだの方はぜひ第一巻から読み始めてほしい。
blancasさん、
そうですね。私もHyperionを読んだときのようなsense of wonderを感じた作品です。やはりSFはこうであって欲しいですね!
私も邦訳はとっても難しいと思います。どんなに優れた翻訳者でも、このもってまわった会話のニュアンスは伝えられないと思うし、またAncillaryだけでなく、あとの用語の使われ方が微妙ですものね。
版権のこと、いつも思うのですが、面倒ですよね。著者には何もできないのが、さらに不愉快なことです。
私はどちらもUSでKindle版で読みました。ニューヨークに住む娘に私のPaperwhiteを与えているので、同じ作品を同時に読めるというベネフィットがあるもので。
三部めが待ち遠しいような、終わってほしくないような、複雑な心境で待っていますw
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2015/02/19 05:27
確かに設定含め最初が取っつき難いですが、逆に嵌まると脱けられなくなります。
“Ancillary”という登場人物から意表を突く設定で、久方ぶりにSense of Wonderを実感する作品でした。又、“Ancillary”始め、言葉の使い方が難しく、自分の読解力では意図が正しく理解できたか怪しいです。これの日本語訳は相当に難しいことでしょう。
中身に関係無いのですが、版権関連?で面白い体験をしました。日本とUS AmazonではKindle版を扱っておらず、英国版は日本からのKindle版発注を拒絶。仕方なくKobo版をPCで読む羽目になりました。今年の10月に予定されるAncillary Mercy、出来の良い3部作と云うのは、最新刊が発行される迄が待ち遠しいものです。
投稿情報: blancas | 2015/02/18 07:38