ここ何年かずっと悩んでいたのですが、思い切って新しいプロバイダに引っ越しすることを決めました。
私がブログを始めたころにはTypePadはけっこう良かったのですが、最近問題続きだったので。
現在その準備中でレビューの更新が遅れています。
新しいサイトの準備ができましたら、(中途半端でも)見切り発車しますので、そのときにはブックマークの更新もよろしくお願いいたします!
それでは、お楽しみに!
著者:Gretchen Rubin
ハードカバー: 320ページ
出版社: Crown
ISBN-10: 0385348614
発売日: 2015/3/17
適正年齢:PG15(成人を対象にした本だが、高校生が読んでもためになる部分がある)
難易度:中級(シンプルな文章。受験英語で十分読めるはず)
ジャンル:自己啓発書/心理
キーワード:習慣、性格、自分の傾向、幸せ、健康
いきなり自分の話で申し訳ないのですが、拙著『どうせなら、楽しく生きよう 』で自己啓発書について書いています。
「やれば絶対にできる!」といった本の教えにしたがって真面目に努力しているのに、うまく行かず、「もうこれ以上努力なんかできない」「私はやはりダメな人間なのだ」と崩れ落ちてしまう人がけっこういます。そして、そんな心理状態の人を励ますつもりなのか、「努力なんかしなくてもいい」と諭すたぐいの自己啓発書もあります。私は、どちらも問題だと思ってきました。
じゃあ、どうすればいいのでしょうか?Better Than Beforeの著者Rubinは、「幸せ」というのがごく個人的なものだということは承知のうえで、「人間は、わずかであっても自分が向上しているのを実感しているときに幸福感をおぼえる」と語ります。それゆえにこのタイトル「Better than Before」なのですが、「いかに向上するべきか」を語った本ではありません。そうではなくて、向上を容易にしてくれる「習慣」がテーマです。
人には毎日無意識に繰り返している「習慣」というものがあります。著者Rubinによると、なんと1日の行動の40%がそうだというのです。つまり、この習慣が現在の自分の個性であり、この習慣により将来が決まるわけです。
では、「悪い習慣をやめて、良い習慣を身に付ければよい」ということになります。そのノウハウを書いた本はこれまでにも沢山ありました。
でも、それらの自己啓発書に従って能力が向上し、仕事もできるようになり、幸せ度が高くなる人がいるいっぽうで、何も改善せずにかえって不幸になる人がいます。
「やる」と決めたらすぐに実行できる人と、「健康のためには甘いものはやめたほうがいい」と知りつつやめられない人、昔は陸上部で毎日文句も言わずに激しい練習をしていたのに今は何もやっていない人の違いは何なのでしょう? 意志の強さが違うだけなのでしょうか?
著者Gretchen Rubinは、これらの不可解な現象を疑問に思い、人の習慣についていろいろと調べました。
その結果Rubinがたどり着いたのは、人にはそれぞれに異なる性格、傾向があり、「すべての人にあうベストな対策はない」という結論です。
身長150cm体重40kgの女性と、身長185cm体重75kgの男性では同じ服が似合わないように、習慣についての姿勢にも変えられない個性があります。生まれつきの個性に合わせた対策を使わないと、良い習慣を身につけ、悪い習慣を捨てることはできないのです。
自分にあった対策を知るためには、まず自分を知る必要があります。Rubinはいろいろなタイプを紹介していますが、代表的なのが「期待に応える」という観点からの4つのタイプです。
ニューヨーク・タイムズ紙の記事で性格診断テストが紹介されていたのでご存知の方もあると思いますが、次のとおりです。
Upholders(約束を守るタイプ):他人からの期待と、自分自身の期待のどちらにも応える性格。
Questioners(疑問を抱くタイプ):他人からの期待に疑問を抱き、納得しなければ抗う性格。だが、自分で決めたことは守るし、継続できる。
Obligers(義務に応えるタイプ):他人からの期待を裏切ることができない性格だが、自分で決めたことを実行し、継続するのは苦手。
Rebels(抗うタイプ):外と内、どちらからの期待にも抗う性格。
私はQuestionerで、夫は(私が予想したとおり)Upholderでした。よくできたテストなので、英語ができる方は著者のサイトでのテストをぜひ試してみてください。
本書の特徴は、「人によって良い習慣の付け方は全然ちがう」ということを徹底的に書いているところです。上記のUpholderが楽に取り入れられる方法をRebelに押し付けたら、かえって強い抵抗にあってしまいます。Questionerは自分が納得したことなら守れますが、他人の期待には徹底的に抗います。Obligerはまったく逆です。
これらの性格のほかにも、悪い習慣をすっぱりとやめるほうがあっているAbstainerとちょっとだけ許すほうが長続きするModeratorでは、同じ対策を使うことはできません。かえって逆効果になってしまいます。
この本には、著者Gretchen、彼女の夫Jamie、1型糖尿病がある妹、その他多くの友人が出てきます。それを面倒に思う人がいるかもしれませんが、著者と友人家族とのやりとりを通じて読者に「私はこのタイプだなあ」、「私ならこのやり方では絶対にダメだわ」など考えさせてくれるのが良いところです。
彼女が結論のところで次のように書いていますが、ほんとうにそうだと思いました。
We can build habits only on the foundation of our own nature.
ふつうの「自己啓発書ファン」は、「改善策をまとめて具体的なステップを書いてくれ!」と苛立つ可能性がありますが、これまでの自己啓発書で習慣を変えられなかった人には目からウロコ的な発見がある良書です。
著者:M. R. Carey (Mike Carey)
ペーパーバック: 512ページ
出版社: Orbit (2014/6/19)
ISBN-10: 0356500152
発売日: 2014/6/19
適正年齢:PG 12+(残酷シーンあり)
難易度:中〜上(たまに難しい表現は出てくるが、シンプルな文章とスピーディな展開で読みやすい)
ジャンル:ホラー/SF
キーワード:世紀末、ディストピア、サバイバル、(この右に、ネタバレのキーワードを白文字で書いています)、ゾンビ、人肉食い
文学賞:2015年 The James Herbert Award候補作
小さな少女Melanieは、独房に住んでいる。毎朝、その独房に軍曹と兵隊が来て、頭に銃をつきつけられたまま車いすに固定されてクラスメートが待つ教室に向かう。教室にはMelanieのような小さな子どもたちが集まっているけれど、みんな首も固定されているのでお互いを見ることもできない。
Dr. Caldwellが「our little genius(私たちの小さな天才)」と呼ぶMelanieは学ぶことが大好きだ。とくに綺麗で優しい女性教師のMiss Justineauにあこがれていて、毎日がMiss Justineauの日だったらいいのにと思っている。
これまでの出来事を観察していたMelanieは、クラスメートがときどき姿を消して二度と戻ってこないことに気づく。あるとき二人が姿を消し、その後で、いつもは笑顔で対応してくれるMiss Justineauが一日中悲しそうに目を合わせないでいた。不安を覚えていたMelanieの独房に軍曹がやってきて、教室ではなくDr. Caldwellの研究室に連れて行く......。
私は怖いのが苦手なので、ふだんはホラーを読まないことにしている。
The Girl with All the Giftsは、いろいろ探しているときに偶然出会って読み始めた作品なので、ホラーのジャンルに属するとはまったく知らずに読んでいた。
途中で「ひょっとして...」と思って調べたら、なんと今年新しくできたイギリスのホラー文学賞The James Herbert Awardの候補作だという。「どうりで怖いわけだ...」と納得したのだが、せっかく途中まで読んだので最後まで読み通した。
ネタバレになるので詳しくは書かないが、読んでいる間にCormac McCarthyのThe Road、John Wyndham のThe Day of the Triffids 、Richard Matheson のI Am Legend (映画のほうじゃなくて原作のほう)を思い出した。それらの本を知っている方なら、だいたい想像がつくかと思う。
最近YAファンタジーのジャンルで流行っている「ディストピア」だが、このディストピアはまったく異なるテイストなので、そこに新鮮さを感じた。「どうやって終わるつもりなのか?」と思っていたが、やはり最後にどんでん返しが待っていた。
著者のCareyにとって本書は小説としてはデビュー作になるが、アメコミのライターとしてのキャリアは長い。現在もX-Men: Legacy、Ultimate Fantastic FourといったMarvel Comicsのストーリーを書いている。映画の脚本も書いており、これらの経験が本書The Girl with All the Giftsに活かされている。一瞬のたるみもないスピーディな展開で、いったん引き込まれたら、最後まで(怖くても)読むのをやめたくないだろう。
著者にコミックと映画の世界が長いためか、登場人物たちはややカリカチュアに感じる。だが、このストーリーを展開させるためには、それぞれの特徴を強めに書く必要があったのかもしれない。それ以外は、文句なく上出来の世紀末SF、ホラーである。
*The James Herbert Awardは、2013年に亡くなったイギリスのホラー作家James Herbert(ジェームズ・ハーバート)を記念して、出版社のPan MacmillanとHerbertの遺産管理者が協力して始めた新しいホラー文学賞。イギリスの出版社から英語で刊行された作品が対象。
著者:Rhys Bowen/ C.M. Broyles
ペーパーバック: 270ページ
出版社: Createspace
ISBN-10: 150310205X
発売日: 2014/11/12
適正年齢:PG 8 (小学校高学年から中学生向け。性的コンテンツなし)
難易度:中級レベル(ページ数は多いが、難しくはない)
ジャンル:児童書/ファンタジー/冒険
キーワード:ドラゴン、ウェールズ、鏡の国のアリス、超能力、寄宿学校
母を失って孤児になった12歳のAddison(Addy)は、子供嫌いの叔母の手配で、住み慣れたアメリカのカリフォルニアからイギリスのウェールズにある寄宿学校に放り込まれてしまう。
Red Dragon Academyという寄宿学校に着いてみると、まるで監獄のような巨大な城だった。不思議なことに、子供たちはそれぞれ異なる目的でこの学校に集められていた。科学で天賦の才を持つ少年は最先端の科学教育を受けるために、フランス人オペラ歌手の娘は英語を上達させるために、そしてAddyが仲良くなった少女は上流階級の子が行くすべての寄宿学校から逃げ出して行き場をなくした結果だった。
Academyに来る前からAddyはとてもリアルな悪夢を見るようになっていた。そして、学校に着いてからはもっと奇妙なことが起こる。鏡を通り抜けて、何もかもが反対の恐ろしい学校に迷い込んでしまったのだ......。
アガサ賞、アンソニー賞を受賞している『A Royal Spyness Mystery(貧乏お嬢さま)シリーズ』で有名なRhys Bowenが、娘のC.M. Broylesと共著した子供向けのファンタジーシリーズ The Red Dragon Academyの第一巻。
A Royal Spynessを期待して読むとがっかりするかもしれないが、小学校高学年から中学生向けの冒険ファンタジーとしては良作だと思った。
シリーズのタイトルにもなっているRed Dragonは、英国ウェールズの国旗に描かれているほどでウェールズ人にとっては重要なシンボルである。Red DragonがWhite Dragonを倒した有名なウェールズ伝説があり、それがこのシリーズでも大きな意味を持つことが示唆されている。
まず、舞台になる謎めいた雰囲気の学校がいい。ちょっとハリー・ポッターを連想するが、それよりはずっと軽いのであまり比べないほうがいいだろう。
次に、読者が感情移入できる7人の主要な子供たちの設定もいい。それぞれに特別な能力を持った彼らが手をつないで敵を倒すことになるのだが、この巻ではまだ全員の能力が明らかにならない。特に7番目の能力が謎で、そこに将来どんでん返しが待っていそうな予感がする。
子供たちはややステレオタイプで(インド人の少年が科学ギークというところなど)気になったが、この年代の子供たちにとっては深いキャラクターより、わかりやすくて面白いキャラクターが沢山出てくるほうがいいのはたしかだ。また、次々にやってくる危険にドキドキはらはらするけれど、悪夢を見そうな残酷シーンがないのも児童書としていい。
Bowenは人気作家なのに、本書はこれまでの作品とはジャンルが違うためか大手出版社からではなく、自費出版している。自費出版だが、 Rick RiordanのPercy Jacksonなどと質は変わらない。少々女の子的な視点が多いが、アクションたっぷりなので男の子が読んでも楽しめるだろう。(私は大人だが、子供心に戻ってけっこう楽しんだ)
キンドル版が安いのでおすすめ。(私は電子版のARCをいただいたけれども特に読みにくいことはなかった)
著者:Hermione Eyre
ハードカバー: 448ページ
出版社: Jonathan Cape (UK) 、Hogarth(US)
ISBN-10: 0224097598
発売日: 2014/3/13(UK)、2015/4/14 (US)
適正年齢:PG15
難易度:超上級(英語ネイティブにも難解)
ジャンル:歴史小説(17世紀英国)/文芸小説(マジックリアリズム)
キーワード:Venetia Stanley、Sir Kenelm Digby、Anthony Van Dyck、alchemist、老化、アンチエイジング、美容
17世紀英国、チャールズ一世の時代。
Venetia Stanley(ベネチア・スタンリー)は、ベン・ジョンソンが詩を捧げ、ヴァン・ダイクが絵を描いた有名な美女だった。だが、結婚して子供を産み、30代なかばになったVenetiaは自らの美の衰えを自覚し、老化を恐れるようになっていた。
外交官、軍人、冒険家、哲学者、科学者として活躍する夫のSir Kenelm Digbyは、Venetiaより何歳も年下だ。自分が美を失い、愛も失うことを恐れたVenetiaは、化学の才能がある夫にアンチエイジングの薬を作ってくれるように懇願する。けれども、アンチエイジングの薬の恐ろしさを知るDigbyはそれを断り、害のない別の方法だけを教える。
夫が助けてくれないことに失望したVenetiaは、美を取り戻すための危険な薬「Viper Wine」を秘密裏に入手するようになる......。
1633年のある朝、夫のKenelmは妻がベッドの中で死んでいるのを発見する。愛する妻の突然の死を嘆いたKenelmはこれまでにも妻の肖像画を描いてきたVan Dykeに死の床の肖像画を依頼する。それが有名な左の絵だ。
Venetiaの突然の死は、当時夫であるSir Digbyへの疑惑を招いたが、結局不明のままである。その謎をアンチエイジングの「Viper Wine」に絡めたこの小説にとても興味を抱いて読んだのだが、この小説はそういう読み方をするタイプのものではないことに途中で気づいた。
Venetiaの心理や、突然死に至るまでの経過についてのストーリーはあるのだが、その途中にSir Kenelm Digbyが未来からの声を「受信」するマジックリアリズムが入ってきて、突然別の場所に連れて行かれてしまうのだ。
歴史、文学、そしてポップカルチャーといった広範囲にわたる知識を散りばめたプレイフルで(読む人によっては)ユーモラスな文芸作品だが、私の場合、そのクレバーなプレイフルさがだんだん鼻に付いてきた。突然アンディ・ウォーホルが出てくるよりも、17世紀の人間像だけに絞っていただけたほうが、ずっと楽しめるのではないか。そういう意味で「娯楽として読む作品」としては私には向いていなかった。
イギリスでは一昨年に刊行されて文芸評論家からの評価は概ね高く、アメリカでは今年の5月に刊行される(私が読んだのは、アメリカ版のARC)。
アメリカ的なストレートな小説ばかりではなく、イギリス的な凝った文芸小説に挑戦するのもたまには良いことだとは思う。しかし、娯楽でなく努力して読むのであれば、「読む前と後で、世界の見方が少し変わった」と思わせてくれる作品であってほしいのだ。
著者:Paolo Bacigalupi
ハードカバー: 384ページ
出版社: Knopf
ISBN-10: 0385352875
発売日: 2015/5/26
適正年齢:R(性的シーン、残虐なシーンあり)
難易度:上級レベル(リアリスティックな内容なのでSFが苦手な人にも読みやすいが創作スラングが多い)
ジャンル:SF/スリラー
キーワード:近未来、ディストピア、環境問題、旱魃(かんばつ)、企業スリラー、陰謀、スパイ、ハードボイルド、ラブストーリー
地球規模の気候異変による旱魃で、アメリカの南西部は重篤な水不足に陥っていた。コロラド川流域のネバダ州、アリゾナ州、カリフォルニア州は、川を流れる水の所有権を巡って政治的なかけひきを繰り広げてきたが、川の水量が低下し、平等な分配では生き残ることができない深刻な状況に達していた。
ビジネスウーマンのCatherine Caseがラスベガス(ネバダ州)につくりあげた最新のarcology development(完全環境都市)は、そんな南西部で最も安定した都市のひとつだ。その理由は、Caseに先見の明があるだけでなく、冷徹な手段を厭わないからだ。Water lawyer(水の使用権にまつわる法を専門にする弁護士)を使ってコロラド川の使用権を法的に争いつつ、軍事力、スパイ、暗殺といった汚い手を使ってライバルを破壊する。そういった陰の働きをするのが「Water Knife」と呼ばれる専門家だ。過去に対策を怠ったテキサス州は壊滅状態で、そこからの難民が多く移住したフェニックス(アリゾナ州)もギャングが取り仕切る無法地帯になっていた。そのフェニックスに、Caseはとどめを刺す攻撃をしかける。ところが、フェニックスでWater lawyerが殺され、ラスベガスを壊滅させるような情報をカリフォルニアが握っている可能性が出てきた。フェニックスで何かが起こっている。それを確かめるために、Caseは最も信頼するWater KnifeのAngelを送り込む。
ピューリッツァー賞を受賞したこともある女性ジャーナリストのLucyは、荒れ果てたフェニックスから壮絶なニュースを発信してきたが、仕事と自分の存在意義に苦しみ続けている。惨殺された友人のwater lawyerの謎を追ううちに、LucyはAngelと出会い、危険な陰謀の渦に巻き込まれていく。そして、この二人と運命の糸でつながっていたのが、テキサスからの難民のMariaだった。
The Water Knifeは、The Windup GirlでSFの主要な賞を総なめし、Ship BreakerでYAのプリンツ賞を受賞したBacigalupiの最新のSFで、これまでのすべての作品と同様に現在すでに問題になっている「環境問題」がテーマになっている。
けれども、The Windup Girlがキャラクターよりも世界観を重視する傾向があったのに対し、本作品は世界観よりキャラクターを重視している感がある。Angelのキャラクターがハードボイルドで、SFというよりもスリラーや犯罪小説のような印象だ。
The Windup Girlより入り込みやすく、設定が理解しやすく、ペースが速くて、アクションもたっぷりで、ロマンスもある。娯楽小説として読みやすいので、SFが苦手な人にもおすすめできる。ただし、創作スラングが多いので、そこで悩む読者はいるかもしれない。
ところで、現実社会では環境問題の否定派が多いテキサスが悲惨な状態になっているのが面白かった。著者のブラックユーモア的な「警告」かもしれない。
著者:Anne Tyler
ハードカバー: 368ページ
出版社: Knopf
ISBN-10: 1101874279
発売日: 2015/2/10
適正年齢:PG12(性的な話題やシーンはあるけれど、露骨な描写はない)
難易度:上級レベル(文章のニュアンスを楽しむためには文芸小説を読み慣れている必要がある)
ジャンル:文芸小説/現代小説
キーワード:アン・タイラー、夫婦、親子、兄弟の関係、メリーランド州ボルティモア、アメリカの家族
Whitshank一家は、ごく普通の家族だけれど、ごく普通の家族がそうであるように、「自分の家族は特別」だと思っている。特に、RedとAbbyが今住んでいる家を建てた建築業者のRedの父にその思いが強かった。
子供の頃からRedを知っていたAbbyが初めて彼に恋心を抱いたのがこの家で過ごしたある午後のことで、息子二人、娘二人を育てたのもこの家だった。
Redの両親が事故し、子供たちが巣立った後はRedとAbbyだけで暮らしていたが、70代半ばのRedは健康上の問題を抱え、72歳のAbbyも時折記憶を失って彷徨うようになる。そこで、Redの建築会社で働く末息子Stemが家族を連れて同居することにする。ところが、そこに長男のDennyが突然現れて自分が両親の世話をすると言い張る。
じつは、Dennyは子供の頃から親を手こずらせ、大人になってからは何度も家族の誰にも連絡先を教えず姿を消してきた。家族はDennyをあてにしないことに慣れていたのに、そのあてにならない長男が、親にずっと忠実だった末息子に突然競争心を抱いているようなのだ......。
Anne Tylerの小説に登場するのは、ごく普通のアメリカの夫婦や家族(特にメリーランド州ボルティモア)で、特に大きなことが起こらない。プロットを追うつもりで読むとがっかりするかもしれない。でも、「普通の人々」が誰でも持っているユニークな人格と人間関係を少し離れた距離から、ユーモアと愛情を持って語るとしたら、Anne Tylerを超える作家はそういない。
Tylerのこの最新作では、ボルティモアの中流家庭Whitshankの三代に渡る小さな(けれども家族にとっては重要な)歴史が語られている。それぞ れの夫婦の出会い、互いへの(時に屈折した)思いなど、外から見るとごく普通のつまらない人にもそれぞれに小説になるような体験があるものだと感じさせて くれる。誰の人生も、みんな「特別」なのだ。
Tylerは風変わりな人々を描いても、意地悪な視点がない。だからいつ読んでも安心できる。「この作品を最後に引退する」という噂が流れていたが、どうやらそうではないらしい。それを聞いてほっとした。
著者:Jennifer Niven
ハードカバー: 400ページ
出版社: Knopf Books for Young Readers
ISBN-10: 0385755880
発売日: 2015/1/6
適正年齢:PG15(性的シーン、精神疾患の重いテーマあり)
難易度:上級(2人の主人公が交互に一人称で語る。文章そのものは単純だが理解しにくい部分が多いと思う)
ジャンル:リアリスティックYA/青春小説
キーワード:双極性障害、自殺、自殺念慮/希死念慮、親子問題、家族関係、学校、恋愛、思春期の悩み
大学進学を控えたVioletとFinchは、同じ高校に通っているが付き合う仲間が違うのでこれまで接点がなかった。
チアリーダーをしている美人のVioletには誰もが羨むスポーツマンのボーイフレンドがいて、人気者グループに囲まれていた。いっぽうのFinchは、小学生のときから突拍子もないことをする変わり者として知られ、人気者グループに属さない風変わりな友人しかいない。
けれども、仲良しの姉を交通事故で失ってからというもののVioletは別人のようになっていた。ある日、学校の高い塔から衝動的に飛び降りようとしたところをFinchが助ける。それを目撃した生徒たちは、これまでのVioletとFinchのイメージから、「自殺しようとしたFinchをVioletが助けた」と誤解し、真実を知られたくないVioletはその噂を否定しない。
自分自身に自殺願望(希死念慮)があるFinchは、Violetに近づき、励まそうとする。最初のうちは奇妙で、思いがけないことをするFinchにあきれていたVioletだが、そのうちに彼に惹かれ、元気を取り戻していく。けれども、双極性障害という精神疾患と孤独に闘ってきたFinchは、闘いに敗れかけていた......。
青春時代の危うい精神状態、死、愛を描くこの作品は、John Green、Gayle Forman(ジャンル別 洋書ベスト500に入れたIf I Stayの著者)、Rainbow Rowellなどの作品と比べられている。アマゾンでの読者の評価も高い。だから、ぞっこん惚れ込むのを期待して読んだのだが、私の受けた感覚はまったく逆のものだった。
正直を言うと、私はこの作品がとても嫌いだ。
大人は読んでもいいと思うけれど、若者には薦めたくない。
その理由はいくつかある。
読み始めてすぐ鼻についたのが「読者を泣かせるフォーミュラ」だ。
主人公二人のキャラクターが立体的なティーンとして浮かび上がってこない。二人の間に芽生える恋心にも本物らしさがない。他人から誤解されるFinchの言動が双極性障害をきちんと描いていると思えない。全体的に「こうすれば、こういう結果が得られる」と計算されて作られた作品だというイメージが最後まで抜けなかった。
この本を読み終わったのは8日前のことだが、好きではなかったのでそのまま本ブログでは紹介しないでおこうと思っていた。
その気を変えたのは、知り合いの子供が自殺したのを昨日知ったからだ。
長年問題を抱えていた兄のほうがようやく立ち直って自立したと聞いていたので、弟のほうの自殺は本当に寝耳に水でショックだった。
双極性障害は、本人だけでなく、周囲の者も悩み、苦しむ。
その状態を、この本はきちんと描いていない。それに、救いがない。読者を感動させ、泣かせるためだけに双極性障害や自殺を扱ってほしくはなかった。著者が双極性障害のことをよく知らないのであれば、そのまま(知らない)Violetの視点だけで書くべきだったと思う。
私が好きなJohn GreenやRainbow Rowellは、青春期の子供の心理のリアリスティックさを描くだけでなく、悲劇の中でも生きることを励ましていることだ。
この作品はそれに失敗している。
そう思ったので、あえて感想を書くことに決めた。
著者:Camille Deangelis
ハードカバー: 304ページ
出版社: St Martins
ISBN-10: 1250046505
発売日: 2015/3/10
適正年齢:PG12(中学生以上)
難易度:中級レベル〜(一人称の語り。文章そのものは非常にシンプル)
ジャンル:YA(ヤングアダルト)フィクション/現代小説/ホラー
キーワード:人肉食い、家族愛、友情、愛、ラブストーリー
Marenは友だちを作りたいし、人から愛されたい。けれども、自分にはそれができないことを知っている。
なぜなら、ある「悪いこと」をするのを止められないから。
幼いときにベビーシッターを衝動的に食べて以来、Marenは自分に引き寄せられて近づいてきた者たちを何人も食べてしまった。衝動に駆られると自分の意思では止められないのだ。気づいたときには骨も含めて全部食べてしまった後だ。
Marenが「悪いこと」をするたびに、母はMarenを連れて別の場所に引っ越してきたが、辛抱強く娘を守ってきた母すら許せない事件を16歳のときに起こしてしまう。母にも見捨てられて孤独になったMarenは、一度も会ったことのない実の父親を探すために旅に出る。その道中で、死体だけを選んで食べるという老人と、悪者だけを選んで食べるという青年に出会う。
「人に愛されたい」という要求と「自己嫌悪」に悩まされるティーンのMarenの心境を描いたこのYAフィクションは、"successfully blends metaphor with the macabre"(Publishers Weekly)、"A commentary on young women's sexuality, reliance on self, and being about who you are rather than where you came from...This novel is unique, edgy, and not to be missed! "(RT Book Reviews, 4.5 Stars, "Top Pick")と前評判が良かった。
興味を抱いていたところにARCをいただく機会があったので試してみた。
楽しみにしていたのだが、私の感想はこれまでのマジョリティの意見とは異なるものだった。
「人肉食い」というのは、(この小説内では実際に起こることだが)、著者がメタフォーとして使っているのは明らかだ。では、その理由と目的は何であり、それはうまく働いているのか?
そのヒントになるのが、著者が最後に書いている「Acknowledgements」の部分である。
著者自身はヴィーガン(魚、卵、乳製品なども一切食べない純粋菜食主義)であり、彼女は次の信念を伝えるために「人肉食い」の登場人物を使った青春小説を書いたというのだ。
" the world would be a far safer place if we, as individuals and as a society too a hard, honest look at our practice of flesh eating along with its environmental and spiritual consequences"
(我々の肉食の習慣とそれが環境、精神/魂に与える影響を、個人として社会として厳しく、率直に見直したら、世界ははるかに安全な場所になるだろう)
これを読んで、正直びっくりした。読んでいて、こういうメッセージは全然感じなかったからだ。私は「愛」の異なる形でも描きたいのかと思ったのだが......(全然賛成はできないけれど)。
でも、誤読したのは私だけではないと思う。著者がこのメッセージを与えるためにBones & Allを書いたとしたら、これまで絶賛している人も読み間違えていると思うから。
また、この部分がなくても、私はこの小説を絶賛している人の気持ちが理解できなかった。
主人公の哀しみは胸に全然響かなかったし、その他の登場人物の行動も理解に苦しんだ。フィクションであっても、やはりリアリスティックで説得力がないと、登場人物に感情移入できない。著者が描く「(食べられても仕方ない)悪い人」の例もお粗末だ。これくらいの罪なら私の周囲の人の90%は人生のどこかで犯しているだろう。Marenの「後悔」も薄っぺらすぎる。著者がわざとそうしたのなら、読者はそれを見逃していると思う。
というわけで私は好きではなかったが、これだけ沢山の人が褒めているので、好きになる人もあるだろう。すぐに読みきれるので、風変わりな作品が好きな人は試してみてはどうだろう?
著者:Jandy Nelson
ハードカバー: 384ページ
出版社: Dial Books
ISBN-10: 0803734964
発売日: 2014/9/16
適正年齢:PG12(中学生以上。性のテーマあり)
難易度:中〜上級レベル(一人称の語り。日常で使われている表現を知っていれば非常に読みやすい)
ジャンル:YA(リアリスティック・フィクション)/青春小説
キーワード:ラブストーリー、同性愛、双子、親の死、裏切り、許し
賞:2015年 マイケル L.プリンツ賞受賞作
JudeとNoahは、女と男の二卵性双生児なのに考えていることがすべて分かるほど仲が良かった。けれども、思春期を迎えてだんだん心が離れていく。Judeは大人びた格好をして年上の人気者サーファーたちと行動を共にするようになり、アートにしか興味がなくて「変わり者」とみなされているNoahは新しく隣家に来た少年に恋心を抱く。
14歳になったJudeとNoahが自分ひとりでは対処できない思いを抱えているときに、最愛の母が事故死する。それぞれ相手には言えない大きな罪をおかした二人は、それらを胸の奥底に沈めたままこれまでとはまったく異なる人間になる。
怖いもの知らずで人気者だったJudeは幽霊だけが友だちの孤独な「変わり者」になり、Noahは学校の人気者に囲まれるスポーツマンになる。16歳になったときには、ふたりの間には埋めることができない大きな溝ができていた。けれども、Judeが教会で不思議に魅力的な少年に会ったとき、2年前にいったん止まっていた運命の歯車が動き始める。
二人が気づかないところで、「世界を創り直す」チャンスが到来していたのだ。
現在人気のYA(ヤングアダルト)ジャンルのなかの、「リアリスティック・フィクション」のサブジャンルに属する小説である。そして、今年2015年のマイケル L.プリンツ賞受賞作でもある。
登場人物はすべて過去に悲劇を体験している「壊れた人」たちだ。それぞれに、周囲の人を傷つける過ちもおかしていて、罪悪感の重みに潰されている。
でも、この本の良いところは、運命の糸で引き寄せられた登場人物たちが、前向きに過去の過ちを正していくところだ。主要人物のひとりが「神さまだって間違いを犯す。一回めに作った世界が完璧ではなかったからもう一度作ったじゃないか」ということを別の登場人物に説明する場面がある。ノアの方舟のことだ。そして、"It's time to remake the world"と語りかける。それが、この本のテーマなのだ。
少し出来過ぎに感じたが、それは私が大人だからだろう。これがティーン対象のYA小説であることを忘れてはならない。
人生や愛を前向きに語るYA本は、悲観的なものよりもティーンにとって大切だと思う。読んだ後に、愛を信じ、周囲の人を大切にし、自分も大切にしようと思えるからだ。
I'll Give You the Sunは、人生に悲観的になりがちなティーンにぜひおすすめしたい本だ。
著者:Sara Gruen
ハードカバー: 368ページ
出版社: Spiegel & Grau
ISBN-10: 0385523238
発売日: 2015/3/31
適正年齢:PG15+(性的シーンあり)
難易度:中〜上級レベル(難しい単語や表現に遭遇するかもしれないが、一人称で読みやすい)
ジャンル:ゴシック・ロマンス/Chick Lit(女性小説)/スリラー
キーワード:第二次世界大戦、スコットランド、ネス湖、ネス湖の怪獣、幽霊、ロマンス
Madeline(通称Maddie)は、アメリカ フィラデルフィアの上流階級の家庭で育つが、身勝手でスキャンダラスな母と無関心な父親との間で、愛も友情も知らず孤独に育つ。そんなMaddieに初めて友情を与えてくれたのは、ある夏メイン州にある父の別荘に一人で抜けだしたときに知り合った3人の若者たちだった。彼らは、Maddieと同様にフィラデルフィアの上流階級の子供たちで、その中のひとりEllisからプロポーズされたMaddieは駆け落ち結婚する。
ところが、自信たっぷりで前向きな青年だったはずのEllisは、結婚してから人が変わったように自信がなく、怒りっぽくなっていた。アメリカ合衆国は、1941年のパールハーバーの襲撃をきっかけに第二次世界大戦に参戦していた。だが、Ellisは徴兵検査で色盲があることがわかり、従軍できなかった。退役した大佐の父親はそんな息子を恥じて責め、Ellisはわざと反抗するようになっていた。
あるパーティで父親を徹底的に怒らせて勘当されたEllisは、こちらもまた「偏平足」で従軍できなかった親友のHankと冒険の計画を立てる。戦時中だというのに、スコットランドに渡ってネス湖の怪獣を見つけるというのだ。その無謀さにMaddieは反対するが、EllisとHankに説得されていやいや同行する。
命を落とす危険に遭遇して到着したスコットランドで、Maddieは夫と親友の本当の姿をようやくしっかりと見つめられるようになる。だが、同時に自分には抜け道がないことにも気づく......。
Water for Elephantsは、『ジャンル別 洋書ベスト500』にも入れたほど良い作品だったので、その作者Sara Gruenの新作を一足早く読ませてもらえることを楽しみにしていた。
たしかに面白いし、ページ・ターナーではある。だが、Water for Elephantsと同様の満足感は期待しないほうがいい。Water for Elephantsにはマジカルな雰囲気があり、大衆小説に近くても文芸小説だった。
だが、At the Water's Edgeは、限りなくロマンス本に近い大衆小説だ。Water for Elephantsの作者でなければ「ロマンス」のカテゴリに入れられていたのではないだろうか。幽霊やハイランドの伝説の存在などが出てくるのを考慮すると、「ゴシック・ロマンス」と言えるだろう。
文芸小説だと思って読むと評価が低くなるだろうが、「ゴシック・ロマンス」だと思って読むとがっかりしないし、楽しめる作品だ。
質の良いロマンスや(エンディングを)安心して読めるラブストーリーを探している方にお薦め。
編集者:Paul Show
ハードカバー: 270ページ
出版社: The MIT Press
ISBN-10: 0262029014
発売日: 2015/1/30
適正年齢:PG(何歳でもOK)
難易度:上級レベル(大学受験英語に慣れている人なら小説より読みやすいだろう)
ジャンル:学術書/専門書
キーワード:Trajan、フォント、書体
欧文フォントの王様と言われるヘルベチカが誕生から50周年を迎えて注目を集めたが、実は世界にはもっともっと古い書体がある。
それは、2000年の歴史を持つTrajan大文字である。
ローマ皇帝トラヤヌスのダキア戦争での勝利を記念した「トラヤヌスの記念柱(ラテン語: Columna Traiana、イタリア語: Colonna Traiana、英語:Trajan's Column)」というモニュメントがローマにある。 そこに刻まれた碑文(すべて大文字体)は、その後多くの書体にインスピレーションと影響を与えてきた。
その歴史の中でもっとも重要なのがルネッサンス期と20世紀である。現在使われているのは、Adobeの書体デザイナーCarol Twomblyが1989年にデザインした「Adobe Trajan」だが、それより前の1930年代この文字を徹底的に研究したカトリックの神父がいた。本書は、そのEdward M. Catichの神父のエッセイを含め、実績を詳しく紹介している。そこもとても興味深かった。
また、19世紀後半から20世紀前半にかけて活躍した、(だが私生活では性的虐待の加害者として悪名高い)版画家で活字体デザイナーのEric Gillの貢献についてもビジュアルを含めて紹介されている。
そういった歴史に加え、Trajan書体のグラフィック面での分析、ロシア語でのTrajan書体の影響、現代の書体に関するエッセイなど、書体おたくはもちろん、それ以外の人も「なるほど!」とはまりこむ内容である。
多くの編集者が関わっているために、読みやすい文章とそうでないものがある。ただ、すべてストレートな英語なので、受験英語に慣れている人にとっては小説よりも読みやすいかもしれない。
次のようなビジュアルが多いので、英文をさほど読まなくても理解はしやすいと思う。
作成したのは書体の(陰の)世界では有名な人たちだ。彼らが「これほど包括的な本はない」と言っているので、デザインやフォントを教える大学、会社、そして図書館は本書を所蔵するべきだろう。
*このページで公開している写真は、すべてこのブログ記事のためにMIT Pressから提供を受けたものです。無断で転用されないようお願いします。
Harper Leeと言えば、誰もが知る『To Kill a Mockingbird』の作者である。
この名作の後は一作も書かず、ずっとスポットライトを避けてきた有名な「隠匿者」である。
そのLeeの「新作」が今年7月に発売されることが発表され、いきなりAmazonのベストセラー1位になるほど期待を集めた。
「新作」と書いたが、実は新作ではない。また、To Kill a Mockingbirdの「続編」とよく説明されているが、『Go Set a Watchman』はそれよりも前に書かれたものだ。
「続編」と説明されているのは、主人公が大人になったScout Finchだからだ。Go Set a Watchmanでは、彼女が直面している個人的な問題や政治の問題について父のAtticusの意見を聴くためにニューヨークからアラバマを訪問する、という筋書きらしい。
この作品を読んだ編集者が、「幼いScoutの見解で、別の作品を書いたらどうか?」と提案し、それでできたのがTo Kill a Mockingbirdらしい。Go Set a Watchmanの原稿はその後失われたと思われていたが、2014年にLeeの弁護士が発見し、訂正を入れずオリジナルのままで刊行されることになった。真相は不明だが、そう説明されている。
だが、「もう作品は書かない。刊行しない」というスタンスを保ってきたHarper Leeと、彼女を守ってきた姉で弁護士のAlice Leeを知るメディアはこの展開に懐疑心を抱いている。
しかも、この「原稿発見」と「新刊の発売の決定」は、Harperが脳卒中を起こして視覚と聴覚に障害を持ち、姉のAliceが健康上の問題で新しい弁護士に仕事を引き継いでからのことである。
「今回の『続編』の刊行は、本当にHarper Leeの望むことなのか?」という疑問が生まれて当然だ。
Washington Postの記事でも、周囲の関係者が回答を避けている様子が見える。
本当にHarper Lee本人が望んで刊行された作品ならいいが、そうでないのなら、私は読まずにおこうと思うのである。
著者:Rachel Hartman
ハードカバー: 608ページ
出版社: Random House
ISBN-10: 0375866574
発売日: 2015/3/10
適正年齢:PG12(中高生対象)
難易度:中〜上級(ファンタジーに慣れていれば文章は簡単)
ジャンル:YAファンタジー
キーワード:Seraphina、ドラゴン、ドラゴンと人間のハーフ、戦争、魔法、ラブストーリー
ドラゴンと人間が共生する中世のような世界を舞台にしたYAファンタジー Seraphinaの続編で完結編。
ドラゴンと人間の間の協定が結ばれ、しばし平和が続いていたGoredd王国だが、ドラゴンの内戦で危機が訪れていた。(これまでのストーリーは、Seraphinaをどうぞ)
人間が到底太刀打ちできないドラゴンに対抗できる鍵を握るのは、特殊な能力を持つドラゴンと人間のハーフだ。その一人Seraphinaは、幼い時から心の中の庭にグロテスクな住人たちを住まわせていた。実は、彼らはこれまで彼女が出会ったことがないドラゴンと人間のハーフたちだったのだ。Seraphinaは、彼らを探す旅に出る。
子供の頃、Seraphinaは最初に心の中で出会ったハーフのJannoulaと仲良くなるが、彼女はそのうちにSeraphinaの身体を乗っ取ろうとした。そのときには幸運にも彼女を排除することができたのだが、Jannoulaは別の方法でSeraphinaの世界に舞い戻ってくる。しかも、想像もできないほど強力になって...
前作のSeraphinaは、数々の賞の候補作になり、ベストセラーにもなった。
ベストセラーになっている多くのYAファンタジーはロマンス中心なので、もっとオールドファッションなハイファンタジーに近いSeraphinaはこのジャンルでは新鮮だった。
ドラゴンと人間の共生というテーマや政治的な背景、自分が忠誠を誓う若い王女の許嫁である王子との許されない恋、という設定もなかなか良い。(よくある三部作ではなく、二部で終わるところもいい)
だが、残念なことに、すべてが中途半端に終わってしまっている。ラブストーリーは、まるで恋を体験したことがない中学生が書いたような感じだし、政治的な駆け引きも似たような感じだ。
けれども、それは私がいろんな本を読みすぎているからかもしれない。
ファンタジーの世界にまだ親しんだことがない中学生の少女には、恋愛重視のYAファンタジーよりもずっとお薦めできる。また、その年代にはちょうどよいレベルのファンタジーであり、冒険物語であり、ラブストーリーである。