Kamila Shamsie
2009年4月28日発売
Picador
384ページ
文芸小説/戦争・歴史
Amazon Vine™ Programで得た本(それについてはこちらを)English Review
(あらすじ)
1945年、長崎に住む田中ひろこ(Hiroko Tanaka)は、東西の文化が調和を持って暮らすことを夢見る研究者でアーティストのドイツ人Konradと結婚の約束をするが、Konradは原爆でただの岩に残った影となり、Hirokoの背中にはそのときに羽織っていた着物の鶴が火傷として残る。日本で被爆者として扱われることに耐えられなくなったHirokoはインドのDelhiに渡り、Konradの異母姉Elizabeth(Ilse) Burtonを訪ねる。ElizabethはHirokoに深い親しみを覚えてずっと手元におきたいと思うが、弁護士の夫Jamesの元で働くムスリムの現地人Sajjad Ashrafに競争心と嫉妬を覚える。一連の出来事の結果、SajjadはBurton一家と決別し、Hirokoとともに1947年に新たに誕生したパキスタンに住み着くことになる。
長崎の原爆投下を起点に、パキスタン誕生、旧ソビエト連邦のアフガニスタン侵攻、2001年同時テロ、といった人類の争いと死の歴史を、Burton家が代表する西洋文化に対して、Tanaka/ Ashraf家が代表する東洋文化の立場から小説の形で鋭く問いかける。
あのサルマン・ラシュディが”Burnt Shadows is an absorbing novel that commands, in the reader, a powerful emotional and intellectual response.”と寄稿している。
作者は米国在住のパキスタン人作家で、この作品は英国Orange Prizeの2009年のファイナリストになった。
●ここが魅力!
まず、主人公が被爆者の日本人女性であり、彼女の視点から西洋文化の「戦争と平和」の観念に疑問を投げかける試みに魅かれました。
実は、読む前にはパキスタン人作家が被爆者の日本人女性を主人公にした小説を書いたことに「どうせステレオタイプだろう」と先入観を持っていました。けれども、Burnt ShadowsのHirokoは、登場人物の誰よりも合理的でタフ、しかも不思議な魅力を持つユニークな存在として描かれています。
この本を読んで真っ先に思い出したのは私と姑の関係です。
アングロサクソンの家系を誇りにしている彼女が、ほぼ20年前に東洋人の私と長男との結婚をすんなりと受け入れてくれたことには深い尊敬の念を抱いています。けれども、彼女が何気なく、けれども迷いも罪悪感もなく言い放った「原爆投下はアメリカ人の生命を救うために必要だった」という言葉に、精神的な深い隔たりを実感しました。
これは、Burnt Shadowsの中で被爆者のHirokoが繰り返し憤りを覚えるアメリカ人の一般的な原爆への態度です。もっと深刻な事実は、Burnt Shadowsに登場する西洋人たちのように、彼らが自分の発言の意味に気づいていないことです。意識下で「アメリカ人(西洋人)の生命のほうが、日本人やムスリム教徒の生命よりも尊い」ことを普遍的な常識と信じているために、自分の発言が暴露した根深い差別感に気づかないのです。
Burnt Shadows に登場するElizabeth, Harry, Kim という3世代のBurtonたちは、日本人のHirokoやムスリムのSajjadを友人として深く愛することができるにもかかわらず、最も肝心な場面で西洋文化優先主義の本音を晒してしまいます。そして、本人たちはそれに気づいていないのです。私が「イノセントに無知を決め込む」と呼ぶ理由はそこにあります。
この小説がOprahのBook Clubに選ばれてアメリカ人たちがそのあたりのことを話し合ってくれることを願っています。
着物の鳥の色や話の辻褄など疑問や欠陥はありますが、非常に野心的で読む価値がある作品です。
●読みやすさ ★★☆☆☆
難解な文章ではありませんが、不条理な展開や多くの死に読み進めるのがつらくなるかもしれません。
ですが、1945年から2002年をカバーしながらも展開はスピーディーです。
●アダルト度 ★★☆☆☆
ラブシーンはほのめかし程度で生々しい表現はほとんどありませんが、死を多く扱っています。高校生以上が対象。
●こんな本も
作者のKamila Shamsieが参考図書として挙げた「はだしのゲン」がBarefoot Genとして英語版で発表されることが決定したそうです。
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