Muriel Barery
160ページ
2009年8月25日予定
Europa Editions
文芸小説/食・グルメ
食はフランス人にとって非常に重要な文化である。有名なレストランで食事をするのは金持ちだけではない。一般市民であっても貯金をして贅沢な味を楽しむのがあたりまえだということだ。多くのアメリカ人のようにピザやハンバーガーで腹を満たすは知性の欠如に近い.....といったことを私はPeter Mayleの作品などで学んだのだが、聞きかじりだけでなく、実際にフランス人は「食」を大切にする。二十数年前にフランス人の友人宅を訪れたとき、友人と2人で昼食にスパゲティを食べに行ったら彼の母親にがんがん叱られた。「フランスに来てイタリア料理を食べるとは何事か!」ということらしかった。
そういう国だから、有名なシェフは芸能人より有名で政治家よりも力があるとさえ言われる。だが、そのシェフの浮き沈みを決めるのは有名な料理評論家である。だからある意味では評論家のほうがシェフより権力があるのだ。
Gourmet Rhapsodyの主人公はフランスで最も有名な料理評論家で、彼は心臓病であと48時間の命だと宣言される。3人のわが子をまったく愛さず、 美しい妻を家に残して愛人を作り、その愛人でさえ自分の好きなように利用するだけの評論家が死の床で唯一心にかけているのは、彼の記憶に深く埋もれている「あの味」である。死ぬ前にもう一度あの味を味わいたい。だが、それが何だったのか思い出せない。
彼が高級アパートメントの一室で「味」の記憶の旅に出ている間、彼に関わった人々(とペット)はそれぞれの感傷に浸る。彼についての良い思い出を持つ者もいるが、多くは彼に傷つけられ人生を破壊された者たちだ。特に妻のAnnaと子供たちは捨てたくても捨てられない愛に再び傷つけられる。
料理評論家が味を求める記憶のジャーニーはまるでミステリーだ。私はあれこれと想像したが、通常のミステリーより犯人は見つかりにくい。最後にその味がわかったときには、「え〜っ!そんな」と思った。私の想像とはちょっと異なっていたからだ。
ともあれ、自分の崇高な人生の目標のためには他人の人生を破壊しても平気な評論家にとって、最も適切な罰があるとしたら、この「至福の味」であろう。というのは、彼の人生の達成をすべて否定するようなものだからである。
●ここが魅力!
フランスでの家族旅行を計画するときに「食べること」を重要な要素として考慮した私ですから、食べ物にこだわるこの本はそれだけでも魅力です。出てくる料理のひとつひとつをまるで自分で味わっているかのように楽しませてもらいました。あの最後の味もなんとなく想像できます。そういう食いしん坊な人には、この傲慢な料理評論家の身勝手さも楽しめるかもしれません。
●読みやすさ ★★☆☆☆
フランス語の表現そのものがけっこうフォーマルだったのではないかと思います。食べ物の解説などがわざと評論家っぽく書かれており、たぶん読みにくく感じるでしょう。けれども各章はとても短くてすぐに読み切ることができます。全体でも200ページ以下で、この文体が大丈夫な方には読了しやすい本です。
●アダルト度 ★★☆☆☆
セックスに関する話題もちょっと出てきますが、表現はあからさまではありません。
●その他のBarberyの作品:
世界的に有名になったThe Elegance of the Hedgehogのほうが第二作で、これが作者の第一作です。Barberyは現在日本(京都)在住で三作目を執筆中とのことです。
The Elegance of the Hedgehog「優雅なハリネズミ」
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