muse & marketplace特集第8回でご紹介するのは、ボランティア講師のStephen McCauleyです。
アメリカでは、文芸評論家も重視するのが人物造型(Character development)です。人物描写ではなく、それ以前に登場人物そのものをまるで生きている人のようにちゃんと作り上げることがCharacter developmentで、それを描写するのはまた別のテクということになります。
人物造型と人物描写のどちらにも卓越していて、それだけでも本1冊楽しめるのが、Stephen McCauleyの作品です。
ジェニファー・アニストン主演の映画The Object of My Affection(邦題「私の愛の対象」)をご存知の方はいらっしゃると思いますが、その原作を書いたのがMcCauleyです。ゲイの男性と同居している妊娠中の女性が、親友だった彼に恋してしまうという切なくて可笑しいこのコメディはアメリカではベストセラーになった作品です。てっきり邦訳されていると思い込んでいたら、「ところが私の作品は日本語には訳されていないのよ。手伝ってくれなくっちゃ!」とチャーミングにせがまれて、びっくり。
McCauleyの作品は日本人が楽しめそうなものばかりなので、邦訳されていないのは、本当に不思議です。
Alternatives to Sex
Stephen McCauley
風刺小説/現代小説
同時テロ直後アメリカ全体がある意味での“心的外傷後障害(PTSD)”にかかり、人々は過食や浪費などの衝動的で強迫神経症的な行動を取るようになっていた。50歳を目前にしたゲイのWilliamの"posttraumatic self-indulgence"は、インターネットのアメリカ版出会い系サイトで匿名の相手と会い、毎晩のように行きずりのセックスをする依存症だった。Williamはこの依存状態から抜け出すために禁欲を決め、それに代わる依存行動(たとえばアイロンがけ)を始める。おろそかになっていた不動産セールスの仕事でも心を入れ替えて力を注ぐようになるが、禁欲の誓いは守れないし、友人Edwardとの関係はややこしくなってくる。Williamは自己中心的で、浅はかで、嘘つきだけれど、本物の愛を求めるがためにそれから逃げているのがわかっているから憎めない。
●ここが魅力!
作者がゲイということもあって、長期的な恋愛関係への恐れ、匿名の出会い系のデートのルール、ヘテロに対する視線...などゲイの人間関係や友情関係がリアルでユーモアたっぷりに描かれています。同時テロ後のアメリカ国民の異常行動も風刺がきいています。
「クミコ」という匿名を使っている(日本人ではなくてユダヤ人らしき)受動攻撃性性格の賃借人とか、高所恐怖症のゲイの航空機客室乗務員など風変わりな登場人物が揃っていて、彼らの行動の描写がまた可笑しくてたまりません。
プロットらしいプロットはないのですが、Williamの知的で飄々とした人間観察と自嘲と登場人物の交流を読むだけで、十分満足できます。でも、「It’s always good to take a stand in life, even a completely meaningless one」といった面白い文がありすぎて、いちいち「これは面白い!」と感心していたらなかなか先に進めなくて困りました。
●読みやすさ ★★★☆☆
文章そのものは簡単です。けれども、ニュアンスを理解するためには、ある程度アメリカ文化や英語に馴染んでいる必要があります。そういう意味では、英語力よりも文化的な知識を要する本です。
●アダルト度 ★★★★☆
セックスの話題を扱っていますし、性器の名称も出てきますが、まったく生々しさはありません(Twilightの第4巻のほうがずっと生々しい)。それでも子供向けの本ではありません。
●この本が気に入った方は...
映画化されたThe Object of My Affectionはユーモアがあるだけでなく、切なさを描いていて読者には一番人気があります。
コメント
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