Random House
2010/1/5発売
文芸小説/現代小説
22歳という若さで結婚したアダムとシンシア・モレィ(Adam and Cynthia Morey)は、頭脳明晰で社交性もある恵まれた(Privileged)カップルだ。アダムはウォール街の投資銀行家として才能を発揮し、ファンド会社の社長からも特別扱いされて高収入を得るようになる。申し分のない生活に見えるが、25歳までに2人の子供を産んだシンシアは、だんだん閉塞感と不満を覚えるようになる。一方のアダムもこの程度の成功では満足できずに、裏で違法な取引を始め、二重生活を送る。
この危機を乗り越え、アダムは自分のファンド会社を作り、シンシアは彼が儲けた金で慈善事業を始め、Morey家は全国的に有名になった。だが、満足している父母の陰で、あまりにも恵まれた環境で育った娘のエイプリル(April)と息子のジョナス(Jonas)は人生の目標を見つけられない。●感想
わが家は毎年クリスマスはコネチカット州にある夫の家族を訪問します。そして最近では義弟夫婦が属している某カントリークラブでクリスマスの食事をする習慣になっています。このクラブに属すための手続きはこんな感じです。まずメンバーが候補のカップルをパーティ(仕出し店やウエイターを雇う正装パーティ)に招待し、他のメンバーに紹介します。このパーティの行いが良いと推薦文を書いてもらえます。その後自宅で同様の正装パーティをし、メンバーを招待します。ここでメンバーたちが家の様子などをチェックしてメンバーとしてふさわしいと感じたら、正式にクラブに属す招待状が来ます。大金を払ってメンバーになり、毎年の(私からすれば巨額の)会費を払っても正式メンバーになれるまでに3年間の執行猶予があります。この時期に何も問題を起こさなければ永久メンバーになれるというものです。
かつてのように夫の実家で夕食の準備の手伝いをして皿洗いをするよりずっと楽ですから良いのですが、このカントリークラブで食事をするたびに私たち一家は「ここに住まなくてラッキーだったよね」と語り合います。(その理由を知りたい方は、ぜひこの本をお読みください)
この本に登場するアダムとシンシアは、まさにこのカントリークラブに属している人々なので、「The Privileges」もカントリークラブでのクリスマスの夕食ほど楽しませていただきました。ここで描かれている人々は決して誇張した作り物ではないので、日本のみなさんには、そういう意味でおすすめ本です。一生懸命モノを作ったり、育てたりしない、こういう人々がアメリカならず世界を動かしてるんですから、嫌になりますよ。ただし、私はこの世界に初対面ではないので多少の不満は残りました。たとえば、ニューヨーク市の若き金融投資家がモラルを捨てて昇り上がって行くストーリーは、昔のJay McInerneyやMichel Lewisを思い出させます。また、dysfunctional familyという意味ではJonathan Franzenあたりにも似ているところがあります。社会風刺という意味では、Tom Perrottaも。けれども、それらを超えるインパクトに欠けています。
文章はインテリジェントな表現なのですが、全体的な読後感が薄く、それが残念でした。
●読みやすさ ★★★☆☆気取ったところがなく、すっきり簡潔な表現です。文芸小説の中では非常に読みやすいほうでしょう。
●アダルト度 ★★★☆☆性的な話題は沢山ありますが、詳細の表現はありません。
●共通性のある優れた本
Brightness FallsLiar's Porker
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