Margaret Atwood
521ページ出版社: Anchor
文芸小説
2000ブッカー賞受賞作、カナダ総督賞最終候補作
私が差し上げたいノーベル文学賞残念賞その4
年老いた未亡人のIris Chase Griffenは、妹Lauraが第二次大戦直後の1945年に亡くなったときのことを思い出し、彼女がそのとき何を考えていたのだろうと思いを馳せる。彼女の追憶に引き続き、Lauraの死後発表された彼女の小説The Blind Assassinが始まる。裕福な女性が労働者運動家でパルプ小説家の愛人と密会するとき、彼から語り聞かされるのが残酷なディストピアを舞台にしたThe Blind AssassinというSFである。 劇中劇はけっこう存在するが、アトウッドのこの作品は、小説中の小説の中にさらにこのSF小説が存在するという複雑さだ。 つまり、「現実」「小説」「小説中の小説」と3つの世界が相互に関連し合って総合的なストーリィを作り上げているのである。
IrisとLaura Chaseはカナダの裕福な家庭の娘だった。だが、姉妹の母は彼女たちが幼いときに亡くなり、父は不在でお手伝いに育てられたような幼年時代だった。第一次世界大戦後の経済恐慌、共産党狩り、労働運動が高まりなどの影響を受け、Chase家は没落の運命をたどる。その経済的危機を逃れるためにIrisの父は18歳の彼女を35歳の冷酷な実業家のRichard Griffenに嫁がせる。無垢で夢見がちな妹のLauraを守るためにIrisは自己を犠牲にしたが、姉妹の仲は、活動家でパルプSF作家のAlexとの関係を含め複雑なものがあった。Lauraの死後に発表されたThe Blind Assassinは、LauraとAlexの恋愛関係を描いたものだと信じられていたが、実はこれにも秘密が隠されていた。
この小説は登場人物といい小説内の小説といい、何一つ外見どおりのものはない。最後に真実が明らかになるが、その後でThe Blind Assassinというタイトルの意味を深く考え込むことだろう。
●ここが魅力!アトウッドというとディストピアですがが、この小説ではそれが小説内の小説のまたその中に登場するという複雑さです。けれども、20世紀初頭のカナダの歴史を描きながらもそこにディストピアが忍び込んでくるとことがアトウッドの巧みさです。
アトウッドの大ファンには非難されるかもしれませんが、この作品は私の好みではAlias Graceと1、2位を争うものです。この時代のカナダの雰囲気が綿密に描かれているのが私好みということもありますが、複雑な構成がうまく効果をあげている珍しい作品だからです。
Irisの外見の冷たさがどこから来るのか、最後にそれがわかりなんともやるせないものを感じます。
私がアトウッドに抱くmixed feelingは、この「やられた!」という率直な感服と長引くやるせなさです。
●読みやすさ ★★☆☆☆3つの物語が交互に語られ、しかも語り手が故意に語らない真実もあります。したがって、こういった文芸小説を読み慣れていないと混乱したり、苛立ったりする可能性があります。ですが、先入観を捨て、リラックスしてアトウッドの語る物語をそのまま受け入れれば、3つの世界それぞれを楽しむことができるでしょう。そして最後にこれらがどう繋がっているのかがすうっと見えてきます。
● アダルト度 ★★★☆☆
性的執着、不倫関係、残酷なシーン、などありますが、あくまでアトウッド的。「露骨」という感じではありません。いつものように、フェミニズムのメッセージも感じます。理解できる高校生以上が対象。
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