Margaret Atwood
480ページ(ペーパーバック)
Random House (Anchor)
1996年
ミステリー/心理スリラー/文学小説
1996年ギラー賞受賞作、1996年ブッカー賞およびカナダ総督賞最終候補作
私が差し上げたいノーベル文学賞残念賞その3
1848年にカナダで実際に起こったセンセーショナルな殺人事件の小説化。
アイルランドからの移民で当時16歳だったGrace Marksは、メイドとして働いていた先の主人Thomas KinnearとKinnearの家政婦で愛人のNancy Montgomeryを殺害した罪で終身刑を言い渡された。だが、Graceは殺人に関する3つの異なるバージョンを告白しており、事件の真相は未だに謎のままである。
服役中に精神病院に入院したこともあるGraceのことを19世紀の文筆家Susanna Moodieは策略家で狂人とみなしており、マーガレット・アトウッドもMoodieの見解で詩やテレビ番組の脚本を書いたりした。だが、後にアトウッドはGraceについて自分自身で調査を行い、事件の見方を変えたという。
小説化されたAlias Graceでは、架空の精神科医 Dr. Simon Jordanが登場し、実際に何が起こったのかを突き止めようと試みる。若い独身のJordan医師はGraceの精神状態を解明して世間から注目され、自分の施設を作ることを夢見ているのだが、無教養なGraceのほうがJordanよりも上手なところがあり、彼の求める答えを簡単に与えようとはしない。
死んだ友達が取り憑いたという主張はGraceの精神が病んでいる証しなのか、あるいは実際に記憶がないのか。 多くの者が信じているように、家政婦でありながら女主人のように威張るMontgomeryの立場に嫉妬したのが殺人の動機なのか...。読み進めるうちに読者もいつの間にかJordan医師のようにGraceの謎に翻弄されてしまうだろう。
●ここが魅力!
階級社会で抑圧された地位の女性が再びシステムの犠牲になるのはアトウッドらしいテーマですが、ミステリ小説のようにストーリー性が高く、謎ときに惹かれてつい読み急ぎたくなるところが他のアトウッドの作品とは異なります。
当時の人々の生活や丁寧に描かれ、実際にビクトリア時代に書かれた小説のような印象すら受けますが、単純なプロットや視点を与えないところがさすがにアトウッドです。語り手の信憑性を疑って読まねばならぬこの作品は、ミステリーではなく「アトウッドの作品」として読むべきでしょう。でないと、「なんだこのミステリーは!」と苛立つかもしれませんからご注意を。
最後まで読んでアトウッドに裏切られたと思うかどうか、それは読者によっておおいに異なるでしょう。
私はこの長引くモヤモヤ感こそがアトウッドの醍醐味だと思います。私が最も好きなアトウッドの作品です。
●読みやすさ ★★☆☆☆
アトウッドの作品にしてはストーリー性が高くて読みやすいと思いましたが、それでも普通の作家よりは集中力を要します。プロットがはっきりしているスピーディーな展開を求める方にはおすすめできません。
●アダルト度 ★★★☆☆
アトウッドらしくテーマには性と暴力が含まれていますが、露骨ではありません。テーマを理解できる高校生以上が対象です。
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