Kate Ledger
384 ページ
Putnam
2009年8月20日発売
文芸小説/現代文学
ワシントンDC地区に住むSimon Bearは疼痛専門医でその妻のEmilyは大手PR会社(アメリカではPRはテレビコマーシャルではなく、広報を意味する)の重役をつとめており、いわゆる「成功者」である。豪華な邸宅に住み、Simonはその邸宅に直結した美しいクリニックで治療する有名医である。
Simonのクリニックを訪れるのは他の医療機関では満足を覚えなかった、あるいは治療を断られた重傷あるいは慢性の疼痛患者である。Simonは疼痛患者を治療し、Emilyは情報をスピンすることでスキャンダルを起こした有名人や会社を救うことに長けている。どちらもRemediesのプロである。だが、どちらも自分たちの関係に深い傷を残している「長男の死」という体験に対して正しいRemediesを見つけられず、どんどん傷を深める。
疼痛のために暗い生活を送る患者に解決策を与える自分の能力と勇気にSimonは誇りを抱いているが、彼が新たに雇用した新人看護師は、Simonの治療法に強く反論する。看護師の疑問に耳を傾けず頑に自分の正当性を押し通すSimonだが、両親を訪問した先で偶然発見した新薬の試験をきっかけに深刻な問題に巻き込まれる。
妻のEmilyは昔の恋人に再会して夫や娘との関係にさらに強い疑問と不満を抱くようになり、そこからの脱出を夢見る。一人娘のJamieもまた、両親に内緒で自分の心の痛みから逃れようとしていた。
●ここが魅力!
タイトルにも書いたように、熟練した文章力と人物描写がRemedies最大の魅力です。
とくに主人公の医師とその妻が実存する人物のように見事に描かれています。どちらも自己愛が強く、自己中心的で、読者は不愉快な気分を覚えるかもしれませんが、彼らの(自己正当化の)視点から描きつつも読者に不快感をじわじわ抱かせるところがLedgerの手腕なのです。新人でこれを完璧に実現したLedgerには脱帽しました。
unlikable characterですがそれを描ききっているために傑作、という意味でアップダイクのRabbitをちょっと思い出しました。
疼痛治療に関しては東西(米国と日本)とではアプローチの方法が非常に異なります。米国では(発熱もそうですが)すぐに疼痛解熱剤を与えるように指示が出ますが、日本ではウィルスを殺す役割を果たす熱をすぐには下げません。疼痛でもこちらではちょっとした手術で麻薬性鎮痛剤をすぐに処方しますが、日本ではこのように依存性が高い薬剤はめったに使いません。
SimonとEmily夫婦の関係も疼痛治療のように東西差がはっきり出ていて、日本人の方には別の意味で興味深く読めるかもしれません。
ひとつだけ難を言わせていただくならば結末。でもその理由はここでは内緒。
読んだ方とは意見を交換してみたいです。
●読みやすさ ★★★☆☆
決して難しい文章ではありません。
すんなりと入り込むことができるでしょう。
●アダルト度 ★★★☆☆
セックスシーンはありますが、ほんのわずかで、しかも生々しい描写ではありません。
それよりも、結婚、仕事、子育て、人生への失望感などをテーマにしているために子供が読んでもちっとも面白くないと思います。
そういう意味で大人向け(中年向け?)の小説です。
コメント
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