288ページ(ハードカバー)
Knop
2010/4/6
文芸小説/現代小説
両親の愛に恵まれなかったLeslieには子どもがおらず、歳の離れた弟のGusをまるで母親のように愛して来た。けれどもその愛情の対象を2001年9月11日の同時テロで失ってしまう。 高校教師のGusには当時一緒に住んでいた年上の恋人Billy(通常は男性名だがここでは女性名)がいて、Leslieはその後何年も独身でいるBillyに肉親のような責任感を抱いていた。
大学で教える傍ら舞台の脚本家をしているBillyには、Leslieには言えない秘密があった。それは、同時テロが起こる前にすでにGusと別れる決意をしていたことだった。自分を愛しているらしきGusにどう別れを告げるべきか悩んでいるときに同時テロで彼を失い、まるで悲劇のヒロインのように扱われることに後ろめたさを感じつつもそれを口に出すことができないできた。ある種の生存者の罪悪感をひきずってきたBillyはその思いを最新の舞台劇The Lake Shore Limitedに書き上げ、Leslieと夫のPierceは観劇のためにヴァモントからボストンにやってくる。Leslieはこの機会に友人のSamをBillyに紹介しようとするが、そこには微妙な心理的背景があった。
舞台劇The Lake Shore Limitedでは、9/11を連想させるような列車事故が起き、妻の生死が不明な中年の主人公Gabrielの言動が物語の中心になっている。この難解な劇をどう解釈してよいのかLeslieは苦しむ。
LeslieとBillyに加え、劇の主人公Gabrielを演じたRafe、かつてLeslieに恋心を抱いていたSamの男女4人の視点で進行する「喪失のトラウマ」や「生存者の罪悪感」などをテーマにした物語。
●感想
Sue Millerの魅力は複雑な心理を描くところでしょう。このThe Lake Shore Limitedでもそれぞれの人物の言動の裏にある複雑な心理をよく描いていると思います。9/11の同時テロは、あまりにもショッキングであったためにかえって小説のテーマにはしにくい事件でした。この物語はテロそのものではなく、それによって人々が受けた心のトラウマを“静かに”描いています。
人の心理の奥底を覗き込んでしまうと、どうしても目を背けたいところが出て来てしまいます。この物語でも「醜い」とまではゆきませんが、親切な行動の裏に隠れた本人も気づきたくないような身勝手さ、自分の心を守りたいがゆえに他人の心を傷つける防衛反応、そんなものが沢山でてきますので、登場人物を好きになることは難しいかもしれません。けれども、気持ちは分かる。それがMillerの小説家としての巧みさだと思います。
●読みやすさ ★★★☆☆
さほど難しい文章ではありませんが、アクションがどんどん起こるような小説ではなく、入り込みにくいかもしれません。文章が上手な作家ですし、心理描写が好きな方に適しているでしょう。
●アダルト度 ★★★☆☆
性の話題/シーンはありますが、 普通の大人向けの小説程度とお考えください。
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