角川映画「野生の証明」のキャッチフレーズに「男はタフでなければ生きていけない。やさしくなければ生きている資格がない」というのがありましたよね(古い話でごめんなさい!)。もともとはハードボイルドで有名なチャンドラーの私立探偵フィリップ・マーロウの台詞”If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive.”から来ているという話ですが。
なんでこういう話になるかというと、昨日の
Simmons Leadership Conferenceという米国でも最古の部類に入る女性のリーダーシップカンファレンスに参加して、世界の舞台で活躍している女性について同じような台詞を思いついたからです。
彼女たちにタイトルをつけるとしたら「女はタフかつジェントルでなければ認められるようにはならない。ユーモアのセンスがなければ尊敬される資格がない」というものです。
シモンズ大学はボストンのガードナー美術館に隣接する女子大(大学院は共学)で、大学そのものはさほど有名ではありませんが、ここが行っているリーダーシップカンファレンスは全国的に有名です。これまでにも、Madeleine Albright, Benazir Bhutto, Carly Fiorina, Toni Morrison, Queen Noor, Jehan Sadat, Oprah Winfreyといった錚々たる顔ぶれが講演しています。昨日のテーマは
"The Spirit of Resilience", 「困難に耐えて立ち直る精神」といったところでしょうか。
私からは想像もできないほどの困難に直面し、そして立ち直り、達成をなした彼女たちに共通するのが「特にすごいことをしたわけではない」というさらりとした態度です。それに他人への恨みつらみが皆無で、自分のミスを分析してそれを次の行動に活かしていることが彼女たちの活躍の秘密なのかもしれません。もうひとつの共通点は、ユーモアのセンスです。真面目なテーマでも必ず自分の置かれた大変な状況を笑い飛ばすゆとりがあるのですよね。こういうところがないと、ただのギスギスした女性だと思われて男性と協力して(もちろん女性ともですが)仕事をしてゆくことができないのではないか、そんな風に感じました。
オープニングはアジア系の女性として初めてピューリッツアー賞を受賞したジャーナリストで社会活動家のSheryl WuDunnです。中国系アメリカ人で日本語も話せ、The New York Timesの東京支局で働いていたこともあります。世界中で抑圧されている女性たちを労働力として活かし、結果的に社会全体に貢献させる方法とそのために我々ができること、などについて話されました。彼女の著作Half the Sky: Turning Oppression into Opportunity for Women Worldwideは日本でも発売される予定だそうです(サインしてもらうために、プレスで参加されていた菅谷明子さんに本購入の長蛇の列に並んでいただきましたことを、この場を借りてお礼申し上げます。
次に私が選んだ講演(同じ時間帯に夫が別の部屋で講演していたのですが、けっこう大金払って参加しているのでタダで話を聞ける夫のには行きませんでした)は、イランでスパイのぬれぎぬを着せられて逮捕、投獄されたジャーナリストRoxana Saberiのものです。
リーダーが変わることによって突然始まったジャーナリストの弾劾と自分には理解できないアジェンダによって投獄され、尋問する者さえ嘘だと知っているスパイ容疑を自白させられるいきさつ、そしてそれを恥じて撤回し、ハンガーストライキをした経過などを淡々と語る彼女の姿はまさにジャーナリストそのものでした。彼女は、自分が解放されたのは世界が注目し、国際的なプレッシャーがかかったからだと信じています。「自分は解放されたがまだ多くの人々が残されている。彼らを助けるまで心に平和は訪れない」そんな責任感を持つ彼女が、まだ解放されない人々のために私たちにもできる次のようなサイトでの支援を求めていました。
Reporters without boarders
Our Society Will be a Free Society
モデレーターは先ほどのSheryl WuDunnです。Roxana Saberiは米国とイランの二重国籍ですが、お母さんが日本人でお父さんがイラン人のハーフです。Sherylも東京に駐在していたことがあるので、日本と深く関わる2人の女性の姿に静かに感動を覚えました。
イベントの後で会話を交わすことができたのですが、お互いに時間がなかったので後日Skypeかメールを使って取材ということになりました。それまでに頑張って下記の本も読まねば!です。
昼食の後は、この人の名を知らない人はいないだろう、というくらい有名な編集者(作家)Tina Brownです。英国人でありながら米国の老舗の雑誌Vanity Fair The New Yorkersを次々と瀕死の状態から蘇らせて有名になりましたが、その後自分でスタートしたTalterで失敗して出版界から葬り去られそうになります。その後、個人的に交流もあったプリンセス・ダイアナの伝記The Diana Chronicles を書いて見事に蘇り、引き続きウェブ新聞/雑誌The Daily Beast.comをスタートして大成功させています。
ウェブ雑誌を成功させた彼女がデジタルの本や雑誌について述べた次の言葉が印象的でした。"Physical books won't die out.(紙媒体の本は死滅しない)"ただし、ジャーナリストの仕事のしかたは変わるだろう、とのことです。「ひとつの仕事でのペイは減り、もっと多様な仕事を引き受けてゆかねばならぬ。けれども需要はなくならない」すごい直感の持ち主のティナが言うのですから、信じてよいと思います。
私が個人的に最も楽しんだのが次のCharlene Barshefsky(シャーリーン・バーシェフスキー)です
クリントン大統領の元でDeputy U.S. Trade Representatives(米通商代表)として中国と交渉し、世界貿易機関に加わらせた彼女の講演はジョーク満載で笑いが絶えないけれども非常に知的で、大学生からプロまで誰でも楽しめるものでした。モデレーターを務めたティナ・ブラウンが、Vanity Fairでデミ・ムーアが妊婦ヌードになったときの編集長だったことから、同じカメラマンがバーシェフスキーの記事のための写真を取りにきたときのことを「ヌードじゃありませんよ」とまず笑わせ、すかさず"Not that I didn't try..."(お願いしなかったわけじゃないんですがね)とまた笑わせる、といった具合です。2人の子持ちで自分の弁護士事務所を持ち、これだけのキャリアを持っているのですから絶対にタフな女性だと思うのですが、そういうところを微塵も見せないところがすごいと何度も何度も感心しました。タフなところを見せつけるうちはまだまだ、といったところなのでしょうね。
彼女の話題の中心は中国のre-emergence(再浮上)でした。彼女は「 rise of Chinaではない」ことを強調していました。そして、アジアのset the tone(雰囲気を作るとか方向性を決める、といった意味で)をしていたのが日本だったのが、今後は中国になること、米国にとっての難しさはそこにあるといったことを語っていたのが非常に印象に残りました。中国の台頭の歴史的なユニークさは、安い労働力とマンパワーの豊富さだけではなく、そこに技術力があることです。ですが、そこにはちゃんとしたストラクチャーがない。また、彼女の感覚では中国は世界の政治的なリーダーにはなりたいと思っていないようです。経済でのナンバー1は狙っていても、世界の面倒をみる役割は米国に任せておいて構わないと思っているという見解は興味深く思いました。また、米国は日本がアジアのリーダーであってくれるほうが良いと思っており、経済力で日本が力を失いつつある現状は米国にとっても好ましいものではないのだということを感じました。これはトヨタの件で「日本バッシングがある」と勘ぐる方に考えていただきたい点です。
もうひとつの重要な視点は、移民法についてです。世界中の優秀な学生が米国の大学に学びに来ますが、現行の法律では卒業後彼らには自国に戻るか永住権を取るために10年闘うかの2つの道しかない。そんなことをしていたら優秀な頭脳を教育したのに失ってしまう。「米国で教育を受けた者には永住権か国籍を与えよ」というものです。「優秀な移民によって偉大になったのが米国の伝統ではないか」というBarshefskyの視点、今後の日本のあり方にも参考になるかもしれません。
成功には運は不可欠、という彼女のしめくくりのアドバイスがまた最高です。
"Learn and enjoy what you do. And, try to do it well."
そうしたうえで成功するかどうかは、
"Who knows."
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