Yann Martel
224ページ(ハードカバー)
Spiegel & Grau
2002年ブッカー賞( Man Booker Prize)受賞作Life of Piの著者Yann Martelによる、なんと9年ぶりの新作。
Yann Martel本人を連想させる若い作家Henryは、大成功を収めた処女作に続く作品として、ホロコーストを題材にした小説とそれに関するエッセイをflip book(表紙と裏表紙が逆さまになっていて、2作がそれぞれから始まり中心で終わる)という形で同時に出版するつもりでいた。素晴らしいコンセプトだと思っていた作品を出版社から見事に拒否され、Henryはしばし書くことをやめて妻とともにカナダから別の都市(特定の都市名は出てこない)に移る。
新しい都市で無名の存在を楽しんでいたHenryのもとに彼が有名な作家であることを知る誰かからパッケージが届く。そこにはフロベールの The Legend of Saint-Julian the Hospitaller (聖ジュリアン伝)、無名作家による芝居の脚本の一部らしい紙が入っていた。脚本のほうは、BeatriceとVirgilという2人の登場人物が延々と西洋なしについて語り合っているものであった。それと聖ジュリアンとの関連がまったく掴めないだけでなく、添付されていたメモには、I read your book and much admired it. I need your help.と、差出人の名前すらないのだ。
謎につられて封書のアドレスを訪ねたHenryは、 taxidermist(剥製師)の店にたどり着く。この店でHenryは剥製のBeatrice(ロバ)とVirgil(サル)に遭遇する。80歳を超えていると思われる年老いた剥製師は、自分が書いているBeatriceとVirgilの脚本を助けてくれるようHenryに頼む。陰気で、無礼で、近所の人々からも忌み嫌われている剥製師に対して、Henryの愛犬も妻も直感的に拒絶反応を起こすが、謎めいたBeatriceとVirgilの脚本に奇妙に惹かれはじめたHenryは剥製師を訪問し続ける。
ついにBeatriceとVirgilの物語と聖ジュリアンの関連を悟ったHenryは突然自分が置かれた状況に愕然とする。
●この作品について
最初にこの作品を読み始めたときの私の反応はWTF(What the F**k?)というものでした。
最初の部分は、Martel自身がこのBeatrice and Virgilを最初に書いたときの実際の編集者の反応ではなかったのかと思わせます。それに関連した話が始まるのかと思いきや、今度は彼が別の都市に移ってなんということのない日常を送っている様子が続きます。そして今度は謎の人物が送って来たフロベールの短編が延々と続き、次には西洋なしについてのわけのわからない脚本です。ここまでで200ページちょっとしかない小説の50ページがすでに終りです。だんだん「これは失敗作ではないか...」という嫌〜な雰囲気が漂ってきて、この辺で「読み進めるのをやめようかな」とも思ったのです。でも、「きっと何かあるにちがいない」という謎にひかれて読み続けました。
ここからも、特にすごいことは起きません。
依然として taxidermist(剥製師) は無礼で変人ですし、Beatrice とVirgilの脚本のメタフォはめちゃくちゃで意味不明です。
ですが、主人公のHenryのように、どういうわけかBeatrice とVirgilの存在が自分に浸透し始めてくるのです。そして突然、Henryのようにすべてが繋がって理解でき、唖然とし、愕然とします。
ほぼ何も起こらない寓話的な表層の下に重く複雑なものが隠されている、そういう深い小説だったのです。
●読みやすさ ★☆☆☆☆
文法や文章が難しいのではなく、入り込むのが難しい作品です。また、第二次世界大戦でのナチやホロコーストの歴史を多少わきまえている必要があります。
最初の100ページほど我慢してください。
●アダルト度 ★★★☆☆
殺戮や拷問シーンがあり、内容の深い本であるため、高校生以上でないとわからないと思います。性的なシーンはありません。
●Yann Martel の処女作
224ページ(ハードカバー)
Spiegel & Grau
2010年4月13日発売
2002年ブッカー賞( Man Booker Prize)受賞作Life of Piの著者Yann Martelによる、なんと9年ぶりの新作。
Yann Martel本人を連想させる若い作家Henryは、大成功を収めた処女作に続く作品として、ホロコーストを題材にした小説とそれに関するエッセイをflip book(表紙と裏表紙が逆さまになっていて、2作がそれぞれから始まり中心で終わる)という形で同時に出版するつもりでいた。素晴らしいコンセプトだと思っていた作品を出版社から見事に拒否され、Henryはしばし書くことをやめて妻とともにカナダから別の都市(特定の都市名は出てこない)に移る。
新しい都市で無名の存在を楽しんでいたHenryのもとに彼が有名な作家であることを知る誰かからパッケージが届く。そこにはフロベールの The Legend of Saint-Julian the Hospitaller (聖ジュリアン伝)、無名作家による芝居の脚本の一部らしい紙が入っていた。脚本のほうは、BeatriceとVirgilという2人の登場人物が延々と西洋なしについて語り合っているものであった。それと聖ジュリアンとの関連がまったく掴めないだけでなく、添付されていたメモには、I read your book and much admired it. I need your help.と、差出人の名前すらないのだ。
謎につられて封書のアドレスを訪ねたHenryは、 taxidermist(剥製師)の店にたどり着く。この店でHenryは剥製のBeatrice(ロバ)とVirgil(サル)に遭遇する。80歳を超えていると思われる年老いた剥製師は、自分が書いているBeatriceとVirgilの脚本を助けてくれるようHenryに頼む。陰気で、無礼で、近所の人々からも忌み嫌われている剥製師に対して、Henryの愛犬も妻も直感的に拒絶反応を起こすが、謎めいたBeatriceとVirgilの脚本に奇妙に惹かれはじめたHenryは剥製師を訪問し続ける。
ついにBeatriceとVirgilの物語と聖ジュリアンの関連を悟ったHenryは突然自分が置かれた状況に愕然とする。
●この作品について
最初にこの作品を読み始めたときの私の反応はWTF(What the F**k?)というものでした。
最初の部分は、Martel自身がこのBeatrice and Virgilを最初に書いたときの実際の編集者の反応ではなかったのかと思わせます。それに関連した話が始まるのかと思いきや、今度は彼が別の都市に移ってなんということのない日常を送っている様子が続きます。そして今度は謎の人物が送って来たフロベールの短編が延々と続き、次には西洋なしについてのわけのわからない脚本です。ここまでで200ページちょっとしかない小説の50ページがすでに終りです。だんだん「これは失敗作ではないか...」という嫌〜な雰囲気が漂ってきて、この辺で「読み進めるのをやめようかな」とも思ったのです。でも、「きっと何かあるにちがいない」という謎にひかれて読み続けました。
ここからも、特にすごいことは起きません。
依然として taxidermist(剥製師) は無礼で変人ですし、Beatrice とVirgilの脚本のメタフォはめちゃくちゃで意味不明です。
ですが、主人公のHenryのように、どういうわけかBeatrice とVirgilの存在が自分に浸透し始めてくるのです。そして突然、Henryのようにすべてが繋がって理解でき、唖然とし、愕然とします。
ほぼ何も起こらない寓話的な表層の下に重く複雑なものが隠されている、そういう深い小説だったのです。
文芸作品としては高く評価されると思う作品ですが、これがLife of Piのような商業的成功を収めるかどうか、というとそれは疑問に思います。というのは、Life of Piはどんなレベルの読者であっても受け入れる寛容さがありました。つまり、あの作品の奥の深さを理解できなくても「面白い」と読むことができるということです。ですが、このBeatrice and Virgilには最初の100ページを我慢する忍耐が必要です。そして隠されている物事の意味を知らないと最後のHenryの驚きやShameが理解できません。それをすべての読者に求めるのは無理なのではないかと、そんなことを感じました。
けれども、がまんすれば「最後まで読んでよかった」と思わせてくれる深い、深い、作品です。もう一度読み返すと、最初に見えなかったものが見えてきます。
●読みやすさ ★☆☆☆☆
文法や文章が難しいのではなく、入り込むのが難しい作品です。また、第二次世界大戦でのナチやホロコーストの歴史を多少わきまえている必要があります。
最初の100ページほど我慢してください。
●アダルト度 ★★★☆☆
殺戮や拷問シーンがあり、内容の深い本であるため、高校生以上でないとわからないと思います。性的なシーンはありません。
●本作に登場するフロベールの The Legend of Saint-Julian the Hospitaller
無料ダウンロードができる
●Yann Martel の処女作
Life of Pi
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