Jane Austen と Seth Grahame-Smith
2009年4月4日
パロディ/ゾンビ/クラシック
発売前からAmazon.comで売り切れ状態のゴアで爆笑のパロディ
Quirkというインディ出版社からの小品がこれほど売れているのは、まさにインターネットの「クチコミ」パワーです。私が存在を知ったのも、The Name of the Windの作者Patrick Rothfussの2月のブログでした。発売前からAmazon.comでは売切れていて、仕方がないので(Amazon.comの2倍の値段なのだけれど)Barns & Nobleに出かけることにしました。
次は私とB & Nの中年女性店員(声にふてぶてしさが滲み出ているから)との電話での会話です。
私「行く前に在庫があることを確認したいのですが、Pride and Prejudice and Zombies あります?」
B & N「Pride and Prejudiceなら…(あるに決まっているでしょうが、という態度)」
私「(それをさえぎって)じゃなくて、Pride and Prejudice and Zombiesです」
B & N「Pride and Prejudice, and…. What?」
私「(ちょっと恥じ入りながら小声で)Zombies」
B & N「(耳が遠い老人に話しかけるように大声で)What?」
私「(耳が遠い老人に答えるように大声で)Zombies!」
B & N「ZebraのZで始まり、O, M, B, I, E, Sと綴るZombies?」
私「(開き直り落ち着き払った態度で)そう、そのZombies」
B & N(しばし無言になる)
B & N「あるかどうか、調べてきます」
こうして入手し、深夜まで読んで読了したPride and Prejudice and Zombiesの内容。
ゾンビになる疫病が蔓延している英国では、それらunmentionablesと闘うために東洋の武術を身につけることが尊敬される紳士の条件であった。特に京都の忍者の術が上流階級の間では尊敬されていたが、貧乏で変わり者(そして日本嫌い)のMeryton村のMr. Bennetは五人の娘を中国に送り少林寺拳法と剣術を身につけさせていた。ロンドンの上流階級に属す独身のMr. BingleyがMeryton村に別荘を買い、彼を歓迎するためのBall(舞踏会)でMr. DarcyはElizabeth Bennetを侮辱する(かの有名な場面です)。その直後に舞踏会はゾンビの襲撃に遭い、見事な闘いの術を披露したElizabethにMr. Darcyは惹かれるものを感じる。
上品で奥ゆかしいオースティンのロマンスとグロで下品でバイオレントなゾンビものを合わせたところがこの作品の最大の魅力である。すべての章が原作と一致するように書かれていて、会話もほぼオースティンそのもの。それゆえつい吹き出す場面がある。女性ファンが多いオースティンの作品を男性が書き直すとどうなるのか、というところも興味深い。女性が書いた二次創作(スピンオフ)ではMr. Darcyが「こんな男いるわけない」という女々しい感じになりがちだが、この作品で若い男性が描くヒロインのElizabethを分析するのも面白い。
Amazon.comでのアメリカ人読者の評価は高いが、私はMixed Bag だと思う。
この作品について私が感じたGoodとBadを挙げてみよう。
Good:
- 原作をちょっと変えただけで突如下品になるジョーク。例えば21ページ(下線部分に注目のこと。分かる人は分かるはず)
Mr. Darcy approached them soon afterwards. Elizabeth turned to him and said, “Did you not think, Mr. Darcy, that I expressed myself uncommonly well just now, when I was teasing Colonel Forster to give us a ball at Meryton?”
“With great energy; but balls are always a subject which makes a lady energetic.”
“It depends on who’s throwing them, Mr. Darcy.”
“Well,” said Miss Lucas, her faced suddenly flushed, “I am going to open the instrument, Eliza, and you know what to follows.”
- グロい場面でもElizabethとMr. Darcyがオースティンらしい上品な会話を交わす可笑しさ。
- 気骨あるElizabethのキャラ。
- 女性用の本によくある読書クラブ用の「A Reader’s Discussion Guide」のパロディで自嘲しているところ。
Bad:
- 同じジョークが繰り返される(Vomit, balls, etc.,)。最初面白くても、だんだん飽きる。
- 原作に忠実な進行はちっともかまわないのだが、ゾンビや忍者との戦いの部分がただの繰り返しに感じる。もっと意外性が欲しい。
- 人物表現が薄い。もっと複雑で魅力的な個性がほしいところ。
読まずに「品がわるい」、「侮辱だ」と批判するオースティンファンがいるようだが、それはお門違いだと思う。私はオースティンファンだが、嘔吐や脳みそが飛び散るパロディが、主人公の性格をめちゃくちゃに変えたハーレークイン式ロマンスよりも侮辱だとは思わない。主人公の性格に注目すれば、女性が書いた多くの二次創作よりも原作に近いかもしれない(私はどっちも違うと思うが)。
大学の授業で、原作とあわせてこの作品とハーレークイン式ロマンス版オースティンを比較すると面白いのではないかと思う。原作は本ブログのここをどうぞ。
●読みやすさ ★☆☆☆☆
Pride and Prejudiceと同程度。加えて、この可笑しさを理解するためには原作を読んでおく必要があります。
●アダルト度 ★☆☆☆☆
性的コンテントはゼロですがグロい場面が多いのでご注意を。
●その他のオースティンの二次創作・スピンオフ
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