Tasha Alexander
2005年
歴史ミステリー/ロマンス(ジェーン・オースティン的)
「エリザベス:ゴールデン・エイジ」の作者によるビクトリア時代の歴史ミステリー
主人公のEmilyは娘をより良い相手と結婚させることを生きがいとしている母から逃れるために子爵(Viscount)のPhilip Ashtonと結婚するが、直後に夫はアフリカ旅行中に死亡する。愛なく結婚したために夫の死を悲しまなかったEmilyだが、2年の喪が明けようとしているときになって生前の友人たちから夫のことを学び、手遅れになった今になって恋心を抱き始める。夫が好んだらしきギリシャ文学や古美術品のことを学ぶうちに、Emilyは彼が偽造品の売買に関わっていたのではないかと疑い始める。そんなとき、夫が生きている可能性がある、というニュースが舞い込む。親しげに近づいてくる男性のうち誰が味方で誰が敵なのか、Emilyは悩みながらも自分で謎解きを試みる。
●ここが魅力!
エリザベス1世の黄金期を描いた映画「エリザベス:ゴールデン・エイジ」をご存知の方は多いかと思います。その原作者Tasha Alexanderが次に手がけたのが、Victoria時代の貴族の若き未亡人Emily Ashtonが主人公のLady Emily Mystery シリーズです。
英国ビクトリア時代(あるいはその前後)の貴族ミステリーの楽しみ方は、現代の自分とはかけ離れた生活にどっぷり浸ることです。自分ひとりでは着替えもせず、コルセットをつけているから物を落としても自分では拾えないような貴婦人の生活は、紅茶やポートワインをいただきながら読めばさらに楽しいものです。また、ロマンスもオースティンやブロンテの流れをくんだもので、それも楽しめます。
多くの読者が指摘するのは、本ブログでご紹介しているSilent in the Grave(Lady Julia Grayシリーズ)との類似性です。まず、主人公の女性はどちらも愛なく結婚して未亡人になった若い貴族階級の女性で、夫の死の真相を突き止めるのが第一巻のテーマです。自分の意見をまったく持たず他人のいいなりになってきた彼女たちが、好奇心と実行力がある大胆な女性に変貌し、自分で真相を究明してゆくところもよく似ています。
けれども、これらは歴史に忠実になるための必然性でしょう。この時代の貴族階級の女性は結婚するまでは親の、結婚後は夫の所有物でした。自分の自由になる財産があり、自由に動き回れる女性主人公を設定するとしたら未亡人にするしかありません。
第一巻の「And Only to Deceive」は夫の死の真相解明ミステリー、第二巻の「A Poisoned Season」ではマリー・アントワネットにまつわる品々の盗難と英仏の外交がからんだミステリー、そして第三巻の「A Fatal Waltz」では政治がからんだスパイ・スリラー的な要素が加わってきます。ロマンスの面ではこの「A Fatal Waltz」で一応の決着がつきますが、今年の9月に第四作が発売されることになっており、スパイ・スリラーとミステリーとしてシリーズが続くのではないかと思います。
楽しく読めますが、ひとつだけ難を言わせていただくなら、主人公の男女が美男美女すぎることです。
●読みやすさ ★★★☆☆
全体的には読みやすいのですが、ときおり時代の雰囲気を出すために当時流行った単語や言い回しを使っています。ギリシャ語には英訳がついていますから別として、簡単なフランス語やドイツ語も出てきます。難易度では★★でしょうが、分からない単語を飛ばしてもストーリーについてゆけるという意味では★★★でしょう。Twilightよりも読みにくく、Silent in the Graveよりも読みやすいレベルです。
●アダルト度 ★★☆☆☆
ビクトリア時代らしく、キス程度までです。
●この本が気に入った方には。。。
Lady Emilyシリーズ
Elizabeth : Golden Age「エリザベス:ゴールデン・エイジ」
コメント
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