でもこれを読んだのはけっこう遅くて、アメリカに移住してからのことでした。今は移動してしまったケンブリッジの「流石書店」に上巻しかなく、下巻を注文して読み始めたところ下巻が来るのを待てなくなってしまいました。どうしても最後まで読みたくて、翌日ふたたび「流石書店」に舞い戻り、英訳版を買いました。面白いのはタイトルがHard-boiled wonderland and the end of the world と順番が逆さまになっているところです。
昨日Google Booksにembedする新機能が発表されてそれをチェックしてみると、出版社のRandom HouseがHard-boiled wonderland and the end of the world一部を無料試し読み許可しているではありませんか!「一部」ということですが、けっこうな量を試し読みできます。
Sigmaに属するのは科学分野を専攻した者だけですが、そういうSF作家が多いのもアメリカの特長です。Sigmaの創始者は米海軍のエンジニアでSF作家のArlan Andrews。また、今回の出席者のひとりCatherine Asaroは、ハーバード大学で物理学の博士号を取得し研究機関にも勤めた科学者です。私は読んだことがないのですが、代表作は邦訳もされているThe Saga of the Skolian Empire(スコーリア戦史)とのこと。冒険とロマンスSF(「ハーレクインのSF版」という意見もあり)ということで、昔はやったスペースロマンみたいですね。でも、物理学者にしかできないような発想も多いようです。
Elric of Melniboné(メルニボネのエルリック)と聞いてすぐにピンとくる人は、相当なファンタジーファンでしょう。 fantasyの中でも1960年くらいまでに作られた、剣や魔法が出てくるジャンルはhight fantasyと呼ばれています。1961年から書かれたElricサーガもそのひとつで、英語圏では「これを読んで育った」というマニアックなファンがけっこう存在するようです。もちろんコミックや映画化が試みられましたが、コミックはすぐに中止、映画化も実現せずにこれまできました。
実は私と姉もそうなのです。ファウンデーション(銀河帝国の興亡)シリーズだけでなく、翻訳されているアシモフとブラッドベリは子供のころ全部読んでるはずです。 「それからDouglas Adams」 「The Hitchhiker's Guide to the Galaxy!」思わず大きな声で答えてしまいました。 「英国の作家は米国の作家にはないよさがあるよね。たとえばNeverwhereを書いた、ほれ、あの…(名前がすぐ出てこないところが私と同年代らしいところ)」 Brianが詰まると、私とShiraは同時に「Neil Gaiman!」と合唱しました。 引き続き、Ender’s GameのOrson Scott CardやKurt Vonnegut、Arthur C. Clarke の名が挙がるところがまさに「典型的SF/ファンタジーファン」といったところでしょう。 ファウンデーションに対する感傷的な思い出がないShiraと私の共通の好みは、Patrick Rothfuss のThe Name of the Windです。 「それ何?」と怪訝な顔でたずねるBrianに私とShiraは「ファンタジーとして優れているだけでなく、文芸作品としても優れている稀な本」、「Patは面白くて、しかもよい人」と洗脳をはじめました。たぶんBrianは家にもどってからAmazonで注文したことでしょう。
家に戻ってからわが娘に「これまで読んだなかで一番好きなSF/ファンタジーは?」とたずねてみました。 「ひとつというのは難しいねえ。タイプがちがうから」 ということで、それぞれのタイプでのお気に入りを挙げてもらいました。 1)人物造型が優れていて、設定が面白く、政治的にも考えさせるところがあり、ロマンチック。 Poison Study -書評をご参考に
2)ともかく可笑しくてたまらない。背後にある反宗教的メッセージへの共感。 The Hitchhiker's Guide to the Galaxy
3)でも、ひとつだけ選ぶならば… The Never Ending Story 原作はドイツ語ですが、私も日本語ではなく英語でしか読んでいません。娘が小学校2年生のときから「最も好きな本」として挙げる本です。
読み返してがっかりしたのはハインラインの夏への扉(The Door Into Summer)でした。たぶん、思春期に読んだからすごく好きになって、ずっと理想化していたせいでしょうね。でも初めて読む人にはおすすめです。
明日はいよいよ2008年に出版された最高の児童書(中学生から高校生対象)を選ぶBattle of the Kids Booksの決勝戦です。 決勝に残った本のひとつで、読者投票ではダントツ1位の本がこれ、The Hunger Gamesです。私はホラーとバイオレンスが苦手なもので残酷そうなこの本を避けてきたのですが、読んでびっくり。良い意味で予想を裏切る優れたSF/ファンタジーでした。
muse & marketplace特集第7回は、Battle of the (Kids') Booksの決勝戦の審判、Lois Lowryです。(二つの特集が重なるなんて素敵な偶然だと思いません?) Lois Lowryは、ヤングアダルト向け児童書としてより優れたSFとみなされているThe Giverの作者で、これまで数え切れないほど多くの作品を書いています。また、彼女はmuseのボランティア講師の常連でもあり、作家志望者に児童書のコツを指導しています。
今日は多くのLowryの作品の中から2つの異なる未来を描いたSFをご紹介します。
1.The Giver
理想郷の近未来では、すべてが同じであり平等である。色の差もなく、土地や天候にもバラエティはなく、人々の感情にも起伏はない。”Council of elders”が人々に職を任命し、結婚相手も決める。子供たちは”birthmothers” から生まれて、希望する夫婦に与えられる。選択の自由はないが、何の心配もない「理想的」な社会である。理解できない感情が生まれると、すぐに薬を飲むのでそれもおさまる。 この社会では子供が12歳になると適正に沿って職が与えられる。Jonasが与えられた職は、歴史を伝道する「Receiver of Memory」という役割だった。Jonas はThe Giverという指導者から、愛や喜び、悲しみ、苦しみ、など知らなかった感情も学び、ある決意をする。
そろそろ男の子向けのヤングアダルト本のご紹介を。この分野ははSF、 ファンタジー、冒険ものが多く、9-12歳向けの児童書とヤングアダルトの区分がつけにくいようです。同じ本でも異なる町の図書館で児童書扱いされていたり、YA扱いされていたりとばらばらです。また大人の読者が多いのにYA扱いされているものや、その逆もあります。 今日ご紹介するPercy Jackson & the Olympiansシリーズもそんな本のひとつです。ハリー・ポッターのように小学生から高校生くらいまで幅広い年齢層の少年に大人気で、すでに映画化(米国では2010年2月に上映予定)が進んでいます。シリーズ完結編の5巻が今年5月に発売されますので、今からスタートすれば上映までに全部読みきることができるでしょう。
作者Rick Riordanの息子にはADHDと学習障害があり、幼いころにその子が深い興味を抱いたのがギリシャ神話だった。ギリシャ神話の神にはADHDなところがある。その神と人間の間に生まれたdemigod(半神半人、ギリシャ神話に出てくるヘラクレスのようなヒーロー)にADHDがあるのは当然で、しかもそれは利点なのだ。そんな発想で息子のために物語を語り聞かせたのがPercy Jackson & the Olympiansシリーズのきっかけだった。
demigodが集まるCamp Half-Bloodなどハリー・ポッターに似た箇所は多いが、物語そのものはオリジナルなので気にはならないだろう。Harry Potterのほうが哲学的で大人にもアピールする深さがあるが、Percy Jacksonは子供がすんなりと親しめる冒険に満ちたファンタジーで、魔法の代わりにギリシャ神話の神々について知りたくなる子供が続出することが容易に想像できる。また、Harry PotterとPercy Jacksonの第一巻を比べると、Percy Jacksonのほうががぜん入り込みやすいし、読みやすい。 Harry Potterシリーズのレベルを期待せずに読めば、十分複雑で面白いシリーズである。
読み終えると、裏表紙の”You are pure-hearted and lovely, and you have never done a moment’s wrong. But you are a living creature, born to make a real life, however it cracks your heart.”という作者のメッセージの意味が理解できる。
●感想 いつものように「ここが魅力!」でないのは、私が複雑な心境だからです。 Good 相手が子供(YAだから高校生)だからといって容赦せずに人の心の闇を描いた本であり、文学作品としては評価すべきだと思います。ネタばれになるので詳細は説明しませんが、カミュやカフカが好きな人であれば「今どき珍しく優れた児童書」と思うのではないかと思います。また、作者のLanaganが作り上げた不思議な世界は独創的であり、童話がもともと残酷なものであることを考えると、優れた現代の童話ともいえるでしょう。文芸評論家や作家たちから高い評価を受けているのも納得できます。
Bad なぜヒロインのLiga(と読者)がこれほど長く曲がりくねった物語りを体験しなければならなかったのかを結末で納得させてもらえないもどかしさは人気ミュージカルの原作Wickedに似ているかもしれません。読後にモヤモヤ感が長引く作品です。 また、私が一番気にかかったのは、語り手の人称の設定です。詳細は下記の「読みやすさ」のところで説明します。
●読みやすさ ★☆☆☆☆ 英語と文学作品に相当慣れていないと読みこなせないタイプの作品です。 出来事を直接説明せず暗示するところが他のYA作品とは大きく異なります。また、英語の本にはよくあることなのですが個人的に気に入らないのが一人称と三人称を混ぜた語りのスタイルです。一人称の”I”が一人ではなく、男性の語り手全員が”I” だということが、本の中間になるまではっきりしません。また、プロローグの”I”が主人公ではなく、同じ章の同じページで”I”の語り手が何の予告もなく変わるところも不親切です。主人公を含め、女性はなぜか全員三人称で語られています。わざとだとは思うのですが、その必然性は感じませんでした。 もうひとつ読みにくいのは、登場人物たちに教養がなく、訛りがあることを暗示するために、文法や綴りがわざと間違っていることです。たとえば、leddy(lady), perdicament(predicament), et (eaten), thunk(thought)といった感じです。英語に慣れていない人はこれだけでも混乱してしまうでしょう。
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