著者のBeth Maloneyはハリウッドの映画界で活躍する弁護士だったが、離婚後3人の息子と東海岸のメイン州に引っ越す。離婚の辛さから回復し、虐待あるいは放任された未成年者のguardian ad litem(訴訟後見人)の仕事に情熱を抱くBethはようやく念願の自宅を購入した。だが、ビーチ沿いの借家から持ち家に引っ越したときから、健康で優等生だった12歳の真ん中の息子Sammyが突然奇妙な行動を取るようになる。
「PANDAS:Pediatric Autoimmune Neuropsychiatric Disorders Associated with Streptococcal Infections 連鎖球菌性小児自己免疫神経精神障害」という耳慣れない疾病は、National Institute of Mental Health(米国立精神衛生研究所)のSwedoらが2006年に研究発表した概念です。
Lise Eliot 432 ページ Houghton Mifflin Harcourt 2009年9月14日発売予定 脳神経学/発達心理/教育/子育て/ノンフィクション
Simone de Beauvoirは「第二の性」で"One is not born, but rather becomes, a woman「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」"と論じた。だが、そう信じて育った世代の高学歴/専門職の女性たちが母になってみて、息子が人形には見向きもせずにトラックを選んだり娘がバービー人形を欲しがるという体験をして「やはり男女差は生まれつきのものなのか?」という疑問が生まれるようになった。双子のケーススタディなどだけではなく脳神経科学の分野での研究を通じて科学的に男女差を分析する試みが増えている。
だが、メディアで話題になるのは、人目をひく研究結果だがよく内容を見るとネズミを使った実験でしかなかったり、条件が整っていなかったり、信憑性に欠けることがある。また、売れるのは “Men Are from Mars, Women Are from Venus”といったステレオタイプの男女差を強調するものが多く、実際のところ男女の脳が生まれつき異なるのかどうかをきちんと掘り下げたものはあまりない。
そういう意味で、脳神経学者で母親のLise Eliotが書いた Pink Brain Blue Brainは、科学的でもあるしバランスの取れたまれな本である。 Lise Eliotはハーバード大学、コロンビア大学大学院卒業でThe Chicago Medical School of Rosalind Franklin University of Medicine and Scienceで脳神経学の助教授をつとめている。男性がマジョリティの世界で戦い、しかも男の子と女の子の母親でもある。男の子の脳と女の子の脳を比較分析するのにこれ以上の適任者はいないだろう。それぞれの実験結果が実際に何を意味するのかをふつうの母親(もちろん父親)にもわかりやすく説明している。
実にシンプルな解決策:"The more you talk, or read, or write, the more facile you become at each of these skills."
フラッシュカードなどのドリル方式は避けること!でないと本を読むことが嫌いになってしまいます"Be careful, though, to avoid flash cards and other drill-and-kill methods, which will make phonics a bore and turn your child off of instead of on to reading."
また、Eliotは言語能力を身につけるwindow of opportunityは乳幼児期の早期だと説く学者のひとりですが、私は 重要であるけれども決定的ではないし、親はもっとリラックスするべきだと考えています。この時期にこだわると、どうしてもFlash cardを使ってドリル...ということになりがちですから。学童期まではもっとナチュラルな「話しかけ」と「本読み」のみに徹するべきだと思います。
*Gifted Children(天賦の才がある子)は、その分野で他の子よりも努力をせずにたやすくできる。他の者よりも質的に異なる方法で学び、大人の手助けを要さない傾向がある。要するに、天賦の才がある子は、親が押し付けなくてもみずからその分野に興味を抱き、自分でやる気をおこすものなのである(“They are not children who need to be pushed by their parents. They motivate themselves.)。(私の口癖「天才は作れない」に匹敵しますね)
そのときにご紹介したこのEinstein Never Used Flashcards: How Our Children Really Learn--and Why They Need to Play More and Memorize Lessは、たぶん私の考え方に最も近いといえます。 科学的な根拠に基づいた結論ですが、普通の人にわかりやすい書き方で、しかも「どうすればよいのか」というところまで言及しています。 私もこちらでけっこう体験しましたが、「親のあなたが今ちゃんと努力しないと、お子さんが可哀想なことになりますよ」といった(よけいなお世話的)親切アドバイスをしてくる人々がいます。そういう人々に「 neurological crowding が起こると困りますから」とお断りするときに役立つ本です。 「十歳で神童、十五歳で才子、二十歳過ぎればただの人」ということわざはけっこう深いのではないかと思います
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