Amy Tan
1995
現代文学/純文学/戦争・歴史(中国)/移民
悲劇と喜劇を見事に融和させた現代のクラシック
Oliviaはアメリカで白人の母親と中国人の父親との間に生まれたが、実は父には中国に残してきた別の娘がいた。父の死後母がアメリカに呼び寄せた異母姉のKwanは無条件の愛をOliviaに与えるが、Oliviaのほうは妙な姉をうっとうしく思う。ことにOliviaが怯えたのはKwanの幽霊を見る能力で、それを母親に打ち明けたためにKwanはしばらく精神病院に送られてしまう。
Kwanへの罪悪感や母に十分愛されなかったトラウマからか、成長したOliviaには自信にかけるところがあり、それが夫のSimonとの関係にも悪影響を与えている。離婚の準備段階として別居をしているときに、Olivia とSimon,そしてKwanの3人が一緒に中国を訪問する機会が訪れる。
Kwanの故郷で、彼女はOliviaに3人が前世で深く繋がっていたことを語り始める。あれほどKwanがOliviaとSimonの仲を保とうとしたのには、戦争のために犠牲になった前世での悲恋があったからだった。
日本人には馴染みのある「陰と陽」や「輪廻転生」の観念だが、アメリカに住みながらも究極の中国人オバサンを貫くKwanの説は解釈がユニークで、しかも独特のユーモアがあり、読者はKwan教に改宗したくなるかもしれない。
主人公のOliviaは、ぐじぐじ悩んでばかりで自分から状況を改善しようとしないし、自己中心的だし、人間が小さい。Simonにも十分欠陥はある。けれども、それが普通の人間というものだろう。前世でできなかったことをやり遂げるために生まれ変わるとしたら、多少の問題があっても、「なんとか頑張ろう」と勇気を出して努力するようになるだろう。そんなことを考えさせてくれる本である。
●ここが魅力!
私はアジア系の作家にはあまり興味を抱けないのですが、なぜかAmy Tanだけは全作読んでいます。私が一番好きなAmy Tanの作品は、映画化された有名な「Joy Luck Club」ではなく、このThe Hundred Secret Senses(邦訳版:私は生まれる、見知らぬ大地で)です。Amy Tanのすごさは、悲劇と喜劇をひとつの本に見事に織り込む技能で、特にこの本でその良さを味わうことができます。
邦訳もされていますが、ぜひ原書で読んでいただきたい理由は、訳そうにも訳せないKwanの語りの可笑しさにあります。
Oliviaは学生時代にSimonに出会って恋におちますが、Simonはスキー場の雪崩で死亡した恋人を忘れられません。そこで、幽霊と会話ができるKwanを通じて元恋人に「私のことは忘れて新しい人生を生きなさい」とSimonに告げさせようとします。
これはOliviaがKwanにSimonの死んだ恋人のことを説明する場面なのですが、Kwanの言動は私の知り合いの中国人の女性にそっくりで何度読んでも笑えます。
“Chinese too?”
“Polish, I think. Maybe also Jewish.”
“Tst! Tst!” Kwan shook her head. “Polish-Jewish, very hard to find, so many dead Polish-Jewish. Many dead Chinese people too, but I have many connection for Chinese---This yin person know that yin person, easier for me to find if Chinese.”
次はKwanがOliviaに死後に人がどこに行くかを説明しているところです。
“……. All depend what you love, what you believe. You love Jesus, go Jesus House. You Love Allah, go Allah Land. You love sleep, go sleep.”
“What if you don’t believe in anything for sure before you die?”
“Then you go big place, like Disneyland, many places can go try---you like, you decide. No charge, of course.”
そのうえ、人が中国人に生まれ変わりたがる理由は...お買い得なパッケージだからなんですよ。
“I telling you true! Not French, not Japanese, not Swedish. Why? I think because Chinese food best, fresh and cheap, many-many flavors, every day different taste. Also, Chinese family very close, friends very loyal. You have Chinese friend or family one lifetime, stay with you ten thousand lifetime, good deal. …..”
●読みやすさ ★★☆☆☆
決して難しい文章ではないのですが、アメリカのカルチャーや歴史を理解していないと、ピンとこないところが多いと思います。
それゆえ、ある程度洋書に慣れている方におすすめします。
●アダルト度 ★★★☆☆
大人の作品としては普通のレベルです。
●その他のAmy Tanの本
The Joy Luck Club
The Kitchen God’s Wife
The Bonesetter’s Daughter
The Opposite of Fate (回想記/エッセイ)
Saving Fish From Drowning
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