Ben Mezrich
ハードカバー: 320ページ
出版社: Doubleday
(2011/7/12)
ノンフィクション/小説スタイルのルポ
2002年7月、テキサスのジョンソン宇宙センターから600ポンド(約270kg)の金庫が盗まれる事件が発生した。ただの金庫ではない。アポロ宇宙船が持ち帰った月の石と火星の石が保管されている大事な金庫である。盗難どころか汚染もされないよう超厳重に保管されていた月の石がこれほど簡単に盗まれたことに、NASA全体がショックを受けた。
1週間後に逮捕されたのは、なんと内部の者だった。主犯格のThad Roberts(サド・ロバーツ)は、Cooperative Education Program(co-op)に属する25才の学生で、共犯の2人の女子学生もco-opとインターンだった。米航空宇宙局(NASA)のCo-opプログラムは、将来NASAで勤務する科学者、エンジニア、宇宙飛行士の候補として、全米から非常に優秀な宇宙フリークの大学生を集めている。毎年夏休みにインターンのような形でNASAの内部で仕事をするのが彼らの役割で、3年目のThud Robertsは、科学者としての能力だけでなく統率力あるリーダーとして一目置かれていた。犯人は、NASAの若手エリート中のエリートだったのである。
「火星に降り立つ最初の人間」になることを目指し、その道を確実に歩んでいた優秀な科学者が、なぜこんなに愚かな犯罪を考えついたのだろう。恋人でインターンのレベッカ(実際はティファニー・フォウラー)の気をひくためだったというのだが、そんなに単純な動機で将来を棒に振ることができるのだろうか?
事実を元にしているノンフィクションだが、会話や心理表現でフィクションのように自由な「創作」を加えているのが、著者Ben Mezrich独自のスタイルである。映画「ソーシャル・ネットワーク」の原作「The Accidental Billionaires」も小説的に描かれている。
Ben Mezrichの最大の強みは、非常に面白い題材を見つけて、多くの人の好奇心をかき立てるような作品に仕上げることである。これまで多くの作品が映画化されており、本作品も「ソーシャル・ネットワーク」と同じプロデューサーで映画化されることになっているらしい。
しかし、彼の最大の弱点は、いずれの作品も浅くて薄いことだ。登場人物の心理が綿密に描かれていないから、薄っぺらな人物像しか浮かんでこない。どの作品に出てくる人物も同じ性格に思えてしまう。マーク・ザッカーバーグも、月の石を盗んだサド・ロバーツも、もっと複雑で興味深い人間である筈だ。作品からそれが読み取れないのは、残念でならない。
本書を読んでからサド・ロバーツについて調べてみたが、なかなか興味深い人物である。恋人をかばって全ての罪を引き受け、「懲役100ヶ月」という重い実刑を受け、7年を刑務所で過ごしている間にQuantum Space Theoryを考え、出て来てからこれほどのことをやっているのだからなかなかのものである。けれども、サドの性格や考え方は、先日読んだサイコパスの本を思い出させる。このあたり、もっと深く知りたかった。
また、わが夫はアポロコレクターで、アポロの飛行士たちとの交流もあるのだが、月から地球に石を持ち帰った彼らですら、月の石を所有することは法で禁じられているのだという。かろうじて所持することを許されたのは宇宙服や靴についていた月の砂(moon dust)だけだというアポロの飛行士たちがこの作品や映画についてどう思うのか、ぜひ聞いてみたいと思った。
●読みやすさ 普通〜やや簡単
軽いタッチの書き方で、複雑な表現はありません。
けれども、途中の展開がスローに感じるかもしれません。
●おすすめの年齢層
Sex on the Moonというタイトルなので一応セックスのシーンはあるのですが、露骨な表現ではありません。中学生以上。
「火星に降り立つ最初の人間」になることを目指し、その道を確実に歩んでいた優秀な科学者が、なぜこんなに愚かな犯罪を考えついたのだろう。恋人でインターンのレベッカ(実際はティファニー・フォウラー)の気をひくためだったというのだが、そんなに単純な動機で将来を棒に振ることができるのだろうか?
事実を元にしているノンフィクションだが、会話や心理表現でフィクションのように自由な「創作」を加えているのが、著者Ben Mezrich独自のスタイルである。映画「ソーシャル・ネットワーク」の原作「The Accidental Billionaires」も小説的に描かれている。
Ben Mezrichの最大の強みは、非常に面白い題材を見つけて、多くの人の好奇心をかき立てるような作品に仕上げることである。これまで多くの作品が映画化されており、本作品も「ソーシャル・ネットワーク」と同じプロデューサーで映画化されることになっているらしい。
しかし、彼の最大の弱点は、いずれの作品も浅くて薄いことだ。登場人物の心理が綿密に描かれていないから、薄っぺらな人物像しか浮かんでこない。どの作品に出てくる人物も同じ性格に思えてしまう。マーク・ザッカーバーグも、月の石を盗んだサド・ロバーツも、もっと複雑で興味深い人間である筈だ。作品からそれが読み取れないのは、残念でならない。
本書を読んでからサド・ロバーツについて調べてみたが、なかなか興味深い人物である。恋人をかばって全ての罪を引き受け、「懲役100ヶ月」という重い実刑を受け、7年を刑務所で過ごしている間にQuantum Space Theoryを考え、出て来てからこれほどのことをやっているのだからなかなかのものである。けれども、サドの性格や考え方は、先日読んだサイコパスの本を思い出させる。このあたり、もっと深く知りたかった。
また、わが夫はアポロコレクターで、アポロの飛行士たちとの交流もあるのだが、月から地球に石を持ち帰った彼らですら、月の石を所有することは法で禁じられているのだという。かろうじて所持することを許されたのは宇宙服や靴についていた月の砂(moon dust)だけだというアポロの飛行士たちがこの作品や映画についてどう思うのか、ぜひ聞いてみたいと思った。
●読みやすさ 普通〜やや簡単
軽いタッチの書き方で、複雑な表現はありません。
けれども、途中の展開がスローに感じるかもしれません。
●おすすめの年齢層
Sex on the Moonというタイトルなので一応セックスのシーンはあるのですが、露骨な表現ではありません。中学生以上。
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