Jon Ronson
ハードカバー: 288ページ
出版社: Riverhead Hardcover
(2011/5/12)
ノンフィクション/精神医療
この本を一言で説明するのはとても難しい。
「Psychopath Test」という題名からは、サイコパシー(精神病質)とサイコパスについて分析する本を想像するが、そうではない。どちらかというと、 「A Journey Through the Madness Industry(狂気産業での遍歴)」という副題のほうが、この本の内容をよく表している。
著者は、ジョージ・クルーニー主演で映画化された「The Men Who Stare at Goats (書籍の邦題は「アメリカ超能力部隊」、映画は「ヤギと男と男と壁と」)」で世界的に有名になった英国人ジャーナリストのジョン・ロンスンである。彼は、変人を引寄せる特殊な能力でも知られているようだ。
今回の「Psychopath Test」でも、ロンスンは最初からサイコパスを調査しようとしたのではない。「不思議の国のアリス」が穴に落ちたように、偶然の出来事からマッドネス・インダストリー(狂気産業)の不思議な世界に迷い込んでしまったのだ。
発端は世界中の神経学者の元に届いた謎めいた本だ。本が不可解なだけではなく、誰が何のためにこの本を送ったのか、何を基準にして受け取る人が選ばれたのか、それらがミステリーだった。本を受け取った人々が知恵を集めても謎はとけない。そこで彼らが援助を求めたのが、ジョン・ロンスンだった。これまでの作品の内容から、奇妙な事件を掘り下げる適任者として選ばれたのだ。
同じころロンスンが関わっていたのが、「刑務所に行くのを逃れるために精神病者のふりをしたところ、サイコパスの連続殺人犯が収容されている厳重警備の精神病院に収容されてしまった」と主張する患者を開放するために働きかけているサイエントロジストだった。トム・クルーズとかジョン・トラボルタなどの有名人が信仰しているサイエントロジーについてはこちらをご参照にしていただきたいが、サイエントロジストは精神医療のことを根本的にいんちき医学だと思っている。この場合もサイエントロジストのブライアンは「トニー」という患者が正常であり、精神病院に入っているべきではないと主張していた。そのつもりで聴いていたロンスンだが、サイコパスについて学ぶうちに心が揺らいでくる。
ロンスンは、「ロバート・ヘアの精神病質(サイコパス)チェックリスト」で有名なBob Hareに会い、彼の集中講義を受ける。そこで彼が学んだチェックリストに照らし合わせると、トニーにはサイコパスの要素があるのだ。さらに精神医療の歴史を学ぶうち、善意ある精神科医のおかげでサイコパスが治癒されるどころか、さらにずる賢くなって悪化したという事実も知る。
連続殺人をおかす者だけがサイコパスではない。政治経済の世界のトップにもサイコパスはいる。こういったサイコパスが戦争を始めたり、経済を破綻させたりするのだ。サイコパスは口達者で表面的には魅力的、そして誇大的な自己価値観もある。自らも認める神経症的な著者のロンスンは、自分もそうではないかとだんだん不安になる。
ちなみに、日本のウィキペディアによるとサイコパス・チェックリストは下記のとおりである。
この1、2、3、4、5、7、16、あたりを読んでいて、ぽっかり頭に浮かんだのが下記のシーン。いや、何が言いたいってわけではないけれど...。
精神疾患という深刻なテーマを扱っているが、語り口に独自のユーモアがあり、吹き出さずにはいられない箇所が満載である。最近読んだなかでは、もっともエンターティニングなノンフィクションのひとつである。
ちなみに、本著の目次は下記のとおりである。
1 - THE MISSING PART OF THE PUZZLE REVEALED
2 - THE MAN WHO FAKED MADNESS
3 - PSYCHOPATHS DREAM IN BLACK AND WHITE
4 - THE PSYCHOPATH TEST
5 - TOTO
6 - NIGHT OF THE LIVING DEAD
7 - THE RIGHT SORT OF MADNESS
8 - THE MADNESS OF DAVID SHAYLER
9 - AIMING A BIT HIGH
10 - THE AVOIDABLE DEATH OF REBECCA RILEY
11 - GOOD LUC
●読みやすさ 中程度
ノンフィクションのなかでは読みやすいほうだと思います。
●対象となる年齢
特に年齢制限はありません。やや性的な話題もありますが、特に問題ではないと思います。中学生程度から。
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