2009/5/12
歴史小説/ミステリー
アメリカ人歴史学者のClare Donovanと英国ケンブリッジ大学の研究員Andrew Kentが主人公のThe Rossetti Letterの続編。続編だが、前編を読んでいなくても単独の歴史小説として読むことができる。
Clareは、The Rossetti Letterで17世紀のベネチアの謎を一緒に解いたAndrewの計らいでケンブリッジ大学のトリニティカレッジで臨時講師を務めることになった。Andrewとの仲が発展することを期待していたClareだが、大学に到着してみるとAndrewから徹底的に無視され、恋敵の親友からは研究が不可能になるほどの雑務を与えられる。アメリカ人として英国人の同僚から冷たくされているClareにハンサムなDerek Goodman教授が優しくしてくるが、それはClareがWren Libraryでみつけて研究のテーマにしようとした古い日記と研究を盗むためだった。
Clareが図書館で見つけたDiaryは暗号のような速記で書かれた17世紀の女性医師Hannah Devlinの日記だった。当時は女性が医療をすることが禁じられていたが、王宮に使える名医の父から直接医学を学んだHannahは、非科学的な医療を施す英国の医師たちよりも優れた技術を持っていた。貴族ではなく貧しい者の治療に生き甲斐を見いだしていた未亡人のHannahは、国王チャールズ2世の閣僚のひとりで亡き父の過去の知人であるアーリントン伯爵から国王の愛人Mademoiselle de Keroualle(写真左)の病の治療をするよう強要される。投獄を逃れるために治療を引き受けたHannahは、しだいに王宮に使える者の連続殺人と父親の死に関係があることを悟り、真相を突きとめようとする。
●感想
先日ご紹介したOxfordが舞台のHeresyのように、詳細を読むのが楽しい歴史ミステリーです。舞台になっている現代のケンブリッジ大学のトリニティカレッジとWren Library(写真右)は、去年11月に訪問したばかりなので、まるでそこにいるような気分を味わえました。そういえば、本書にも「日本人観光客」ってのがちらりと出てきますが、私のことかも(笑)。
現代のケンブリッジ大学での殺人事件と17世紀ロンドンの王宮を舞台にした連続殺人事件がパラレルで進行していくのは前作のThe Rossetti Letterと同様ですが、17世紀のストーリーのほうが面白いので現代の部分はなくても良かったような気もします。17世紀の部分のHannahとEdward、友人の科学者Ravenscroft は架空の人物ですが、Charles Ⅱ、Henriette-Anne, Lord Arlington, Sir Thomas Clifford, Ralph Montaguなどは実在の人物です。(悪名たかき陰謀の”CABAL”の元になった官僚のうち2人、AのアーリントンとCのクリフォードが登場します)ついでに言えば、The Devlin Diaryの欠陥は、堅い歴史小説でもなく、歴史ロマンスでもない中途半端さでしょうか。その中途半端さのために読者層が広がる可能性はありますが。
フェミニズムが根底にあるために、男性読者はうんざりするところがあるかもしれません。けれども、歴史の詳細は男女とも楽しめると思います。
●読みやすさ ★★☆☆☆
文章そのものは難しくありませんが、歴史が好きでないとディテールに退屈するかもしれません。そのかわり、英国の歴史物が好きで沢山読んでいる人にとっては読みやすい本でしょう。
●アダルト度 ★★★☆☆
ずっとおっとりしていたのに、突然ホットなシーンが現れてびっくりしていたらそれっきりでまたおっとりに戻ります。そのシーンだけなんか場違いに感じましたが、もしかしたら出版社から「歴史ロマンスファンが多いからホットなシーン入れろ」とか指導されたのかもしれません。
●この作品の前作The Rossetti Letter
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