S. J. Parris
448ページ(ハードカバー)
Doubleday
2010/2/23発売
ミステリー/スリラー/歴史小説/宗教
当時の英国では、イタリアとは逆にエリザベス1世を首長とする英国国教会がカトリックを「異教」みなし、残酷な弾圧を繰り広げていた。Brunoは、エリザベス女王のスパイマスターとして知られる国務長官Walsingham卿の依頼でカトリック教徒の動向を探るスパイとしてオックスフォード大学に送り込まれる。オックスフォードで学者としての地位を得ることを望むBrunoはWalsingham卿の甥で友人のPhilip Siney卿に伴い客人としてオックスフォード大学を訪問するが、学者たちからの徹底的な敵意に遭遇する。
Brunoが体験したのは敵意だけではなかった。ある書物に書かれた異教徒への処刑の方法で、教官と学生が次々と殺害されていったのだ。彼はスパイでありながらRector(ここでは総長の意味)のUnderhillに協力して犯人探しをすることになり、危険に巻き込まれて行く。
●ここが魅力!
まず1583年のオックスフォード大学が舞台というのが私にとっては魅力でした。
英国ではヘンリー8世がキャサリン・オブ・アラゴンと離婚してアン・ブーリンとの結婚を計ったときにローマ教皇に拒絶され、それがきっかけとなって国王を首長とする英国国教会が作られました。 ヘンリー8世とその後継者エドワード6世の死後、カトリック教徒のメアリー1世がカトリックを復帰させるために残忍な弾圧を行い「Bloody Mary」と呼ばれましたが、彼女の死後エリザベス1世がふたたび英国国教会を復帰させます。
この時代は、欧州(とくにイタリア)ではカトリック以外の異教徒に対する残虐な弾圧が繰り広げられ、英国ではカトリックへの同様の残酷きわまる処刑が行われていました。異教徒の判決を受けた者は、まず絞首され、蘇生されてから生きたままにして内蔵をえぐられるという残酷な刑です。それでも隠れてカトリック教を信仰し続けた信者は多く、オックスフォードはその信者が多かった場所のようです。
Giordano Brunoは、作者のS. J. Parris(英国のジャーナリストStephanie Merrittの小説用ペンネーム)がケンブリッジ大在学中に文献で出会った実在の人物です。「哲学者、前科学者、マジシャン、詩人」という興味深い職歴で、逃亡者でありながら欧州各国の王宮で寵愛されてきたBrunoは、実際にとてもカリスマ性がある人物だったようです。Parrisの小説はもちろん創作ですが、この年実在のBrunoもオックスフォード大学を訪ね、ひどい体験をしたようです。
16世紀の英国の大学、政治と宗教のディテールが面白く、登場人物もよく描けています。謎解きに関しては満点をあげるわけにはゆきませんが、全体的には非常に満足できるインテリジェントかつ娯楽的な作品でした。
●読みやすさ ★★☆☆☆
文章が難しいというよりも、ある程度宗教や政治についての知識がないと状況を把握することが難しいのではないかと思います。文章は「さすがジャーナリスト」という感じで、知的で押さえた感じの良文です。
●アダルト度 ★☆☆☆☆
「ラブシーン」と呼べないほどのキスシーンが1箇所だけ。それよりも殺人や処刑の部分が子供には向きません。中学生以上。
448ページ(ハードカバー)
Doubleday
2010/2/23発売
ミステリー/スリラー/歴史小説/宗教
1576年、イタリアの修道院の青年僧Giordano Brunoは知的好奇心のためにカトリック教会が禁じている本を読みあさり、「異教(heresy)」を信仰する者として処刑されそうになる。危機を逃れて逃亡者になったBrunoは、類い稀な頭脳とカリスマ性で逃亡者でありながらフランス国王に哲学者として寵愛されるまでになる。だがそこでも危険を感じるようになったBrunoは、カトリックと敵対関係にある英国に居場所を見つけようと考える。
当時の英国では、イタリアとは逆にエリザベス1世を首長とする英国国教会がカトリックを「異教」みなし、残酷な弾圧を繰り広げていた。Brunoは、エリザベス女王のスパイマスターとして知られる国務長官Walsingham卿の依頼でカトリック教徒の動向を探るスパイとしてオックスフォード大学に送り込まれる。オックスフォードで学者としての地位を得ることを望むBrunoはWalsingham卿の甥で友人のPhilip Siney卿に伴い客人としてオックスフォード大学を訪問するが、学者たちからの徹底的な敵意に遭遇する。
Brunoが体験したのは敵意だけではなかった。ある書物に書かれた異教徒への処刑の方法で、教官と学生が次々と殺害されていったのだ。彼はスパイでありながらRector(ここでは総長の意味)のUnderhillに協力して犯人探しをすることになり、危険に巻き込まれて行く。
●ここが魅力!
まず1583年のオックスフォード大学が舞台というのが私にとっては魅力でした。
英国ではヘンリー8世がキャサリン・オブ・アラゴンと離婚してアン・ブーリンとの結婚を計ったときにローマ教皇に拒絶され、それがきっかけとなって国王を首長とする英国国教会が作られました。 ヘンリー8世とその後継者エドワード6世の死後、カトリック教徒のメアリー1世がカトリックを復帰させるために残忍な弾圧を行い「Bloody Mary」と呼ばれましたが、彼女の死後エリザベス1世がふたたび英国国教会を復帰させます。
この時代は、欧州(とくにイタリア)ではカトリック以外の異教徒に対する残虐な弾圧が繰り広げられ、英国ではカトリックへの同様の残酷きわまる処刑が行われていました。異教徒の判決を受けた者は、まず絞首され、蘇生されてから生きたままにして内蔵をえぐられるという残酷な刑です。それでも隠れてカトリック教を信仰し続けた信者は多く、オックスフォードはその信者が多かった場所のようです。
Giordano Brunoは、作者のS. J. Parris(英国のジャーナリストStephanie Merrittの小説用ペンネーム)がケンブリッジ大在学中に文献で出会った実在の人物です。「哲学者、前科学者、マジシャン、詩人」という興味深い職歴で、逃亡者でありながら欧州各国の王宮で寵愛されてきたBrunoは、実際にとてもカリスマ性がある人物だったようです。Parrisの小説はもちろん創作ですが、この年実在のBrunoもオックスフォード大学を訪ね、ひどい体験をしたようです。
16世紀の英国の大学、政治と宗教のディテールが面白く、登場人物もよく描けています。謎解きに関しては満点をあげるわけにはゆきませんが、全体的には非常に満足できるインテリジェントかつ娯楽的な作品でした。
ダン・ブラウンの文章にこれくらいの知性があればもっと面白くなるのに、と思わせる本です。
たぶんこれはBrunoが主人公のシリーズになるでしょう。
●読みやすさ ★★☆☆☆
文章が難しいというよりも、ある程度宗教や政治についての知識がないと状況を把握することが難しいのではないかと思います。文章は「さすがジャーナリスト」という感じで、知的で押さえた感じの良文です。
●アダルト度 ★☆☆☆☆
「ラブシーン」と呼べないほどのキスシーンが1箇所だけ。それよりも殺人や処刑の部分が子供には向きません。中学生以上。
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