Chris Bohjalian
384ページ
Shaye Areheart Books
2010/2/2
文芸小説/ミステリー(のジャンルではないが、その要素が強い)
「Midwives」「The Double Bind」で有名なChris Bohjalianの最新作。
米国北東部にあるバーモント州の小さな町が舞台。バプティスト教会の牧師Stephen Drewは、長年夫から虐待を受けてきたAlice Haywardに浸礼(バプティストは洗礼ではなく、この表現を使うらしい)を執行する。だが、この夜彼女は夫のGeorgeの手で殺され、Georgeもその後拳銃で頭を撃って死ぬ。その夜友人宅に泊っていた15才のKatieは一夜にして両親を失う。Stephenは、Aliceが浸礼をしたのは死の準備だったという思いに取り憑かれ、十分なことをしなかった自分を責め、神への信頼を失う。
だが、次の章の一人称が女性検察官のCatherine Benincasaに移ったとたん、牧師のイメージはがらりと変貌する。解剖の結果Georgeは他殺だということがわかり、CatherineはAliceと不倫関係にあった牧師が犯人だと信じる。だが状況証拠ばかりで起訴に結びつくほどの証拠がみつからない。
次の章のナレーターは、無理心中が起こったときに偶然バーモントを訪問していた作家のHeather Laurentである。Katieと同じような過去を持つHeatherは、新聞記事でこの事件を知って突然Stephen Drew牧師を訪ねる。自殺しようとしたときに天使に救われた体験を持つHeatherは天使について逸話を書く有名作家になっている。エキセントリックな言動で最初は牧師を辟易させるが、2人は恋人関係になる。だが、牧師の決定的な嘘が明らかになったときに、Heatherは彼との関係を一方的に切る。
牧師は決定的に利己主義で冷たい心を持つ殺人者なのか?
最後のナレーターKatieが、ジグソーパズルの最後の1ピースである。
謎に惹かれて読むミステリーの要素はあるが、ミステリーというよりも小さな田舎町を舞台にした人間関係や心理を描いた文芸作品ととらえるべきであろう。
●感想
Chris Bohjalianの良さは、作品ごとに扱うテーマが異なることです。この作品では、夫による妻の虐待、遺された子供のトラウマ、神と天使への信仰心、などを扱っています。純粋なミステリーとして読むと、途中から最後が見えてしまうので評価が異なってしまいます。そうではなく、事件はただの材料なのです。異なる登場人物の1人称での語りを読むと、人によって真実がこんなにも異なって見えるのだということが、よくわかります。
中心になるのは牧師のStephen Drewです。
多くの登場人物が「秘密」を抱えていますが、本当の彼はどんな人なのか、事件の真相よりも、それがミステリーなのです。
少しJodi Picoultを連想させる作品ですが、Picoultのものよりも感情的には距離を置いた語り口です。
●読みやすさ ★★★☆☆
難しい文章ではありませんし、一人称の語りなので入り込みやすいと思います。ただし、内省や独り言が延々と続くのにうんざりするところがあるかもしれません。
●アダルト度 ★★★☆☆
性行為について書いている箇所はいくつもありますが、詳細の表現はありません。けれども内容的には高校生以上が対象でしょう。
●Chris Bohjalianの代表作
Midwives
オプラのブッククラブに選ばれて大ヒットした作品。
The Double Binds
最後の最後にどんでん返しがある
Skeletons at the Feast
コメント
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