先日お約束したBattle of Kids’ Bookの第一ラウンド第四マッチの勝者Tender Morselsのレビューです。
19世紀以前と思われる架空の農村が舞台。15歳のLiga Longfieldは、父からの性的虐待とギャングレイプの犠牲になり、人生に絶望して死を選ぼうとする。だが、不思議なMoon babyに出会い、現実とのパラレルワールドのような理想郷に移り住む。そこには、Ligaを傷つける者は誰一人として存在せず、平和な世界でLigaは虐待の結果生まれた二人の娘BranzaとUrddaを愛情たっぷりに育てる。だが、欲深い小人のDoughtが魔女のAnnieを説得してこの理想郷に裂け目を生じさせる。最初はDoughtだけだったが、春を呼び寄せるための祭り「Bear Day」に心優しい若者Davit RamstrongがLigaの世界に熊に姿を変えて迷い込む。Davitが現実世界に戻った後にLigaの世界に表れた熊は心卑しい若者だった。
心やさしい人々だけがすむ平和な世界しか知らない少女たちは、これら現実世界からの訪問者たちに異なる反応を示す。Branzaはこの理想郷に満足しているが、Urddaは「本物」が存在するエキサイティングな世界に行きたいと望み、ある日姿を消す。
読み終えると、裏表紙の”You are pure-hearted and lovely, and you have never done a moment’s wrong. But you are a living creature, born to make a real life, however it cracks your heart.”という作者のメッセージの意味が理解できる。
●感想
いつものように「ここが魅力!」でないのは、私が複雑な心境だからです。
Good
相手が子供(YAだから高校生)だからといって容赦せずに人の心の闇を描いた本であり、文学作品としては評価すべきだと思います。ネタばれになるので詳細は説明しませんが、カミュやカフカが好きな人であれば「今どき珍しく優れた児童書」と思うのではないかと思います。また、作者のLanaganが作り上げた不思議な世界は独創的であり、童話がもともと残酷なものであることを考えると、優れた現代の童話ともいえるでしょう。文芸評論家や作家たちから高い評価を受けているのも納得できます。
Bad
なぜヒロインのLiga(と読者)がこれほど長く曲がりくねった物語りを体験しなければならなかったのかを結末で納得させてもらえないもどかしさは人気ミュージカルの原作Wickedに似ているかもしれません。読後にモヤモヤ感が長引く作品です。
また、私が一番気にかかったのは、語り手の人称の設定です。詳細は下記の「読みやすさ」のところで説明します。
●読みやすさ ★☆☆☆☆
英語と文学作品に相当慣れていないと読みこなせないタイプの作品です。
出来事を直接説明せず暗示するところが他のYA作品とは大きく異なります。また、英語の本にはよくあることなのですが個人的に気に入らないのが一人称と三人称を混ぜた語りのスタイルです。一人称の”I”が一人ではなく、男性の語り手全員が”I” だということが、本の中間になるまではっきりしません。また、プロローグの”I”が主人公ではなく、同じ章の同じページで”I”の語り手が何の予告もなく変わるところも不親切です。主人公を含め、女性はなぜか全員三人称で語られています。わざとだとは思うのですが、その必然性は感じませんでした。
もうひとつ読みにくいのは、登場人物たちに教養がなく、訛りがあることを暗示するために、文法や綴りがわざと間違っていることです。たとえば、leddy(lady), perdicament(predicament), et (eaten), thunk(thought)といった感じです。英語に慣れていない人はこれだけでも混乱してしまうでしょう。
●アダルト度 ★★★★☆
その場面の描写はまったくないのですが、父親の娘に対する性的虐待、ギャングレイプ、獣姦、アナルセックスなどの暗示が出てきます。その暗示を理解し、物語での必然性として受け入れるためには、読者自身の成熟度が要求されます。それゆえにあからさまな描写はないもののアダルト度が高くなっています。
コメント
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