Shaun Tan
98ページ (ハードカバー)
Templar Publishing
2009/3/2
YA(小学校高学年以上)/絵本/アート本/短編集
「これを読まずして年は越せないで」賞にrumblefishさんがノミネートされた作品です。以前からShaun Tanは気になっていたのでこの機会に読んでみることにしました。
The Arrivalで世界的に注目されたオーストラリア人作家Shaun Tanは、新作Tales from Outer Suburbiaで15のシュールリアルな物語を紹介しています。最初のストーリィは郊外の空き地に住む水牛が導きを求める子供たちに寡黙な方向を示すという象徴的なもの。そして次は台所の食品貯蔵室に住みこんだ葉っぱのような姿の「外国人留学生」のお話です。Tanの独自な雰囲気のイラストと淡々とした文章が織りなす世界は、あまりにも非現実的なのですが、奇妙な郷愁をかきたてます。
私の生い立ちとはまったく重ならない物語のどこがそんなに懐かしいのだろうと自問してはたと思い当たったのが、私がよく見る不思議な夢の数々です。
私はよくとてもリアルな夢を観るのですが、どこかで「これは夢だ」と自覚しています。リアルなようで、風景や人物に決定的に非現実的なところがあるからです。面白いのは、留学生Ericのようにあり得ない設定でも夢の中で私は平然と対応していることです。楽しいことは楽しいし、悲しいことは悲しい。笑いながら、泣きながら目覚めたあとで、「この夢は何を意味しているのだろう?」と考え込んでしまいます。変な夢にはきっと意味があるはずですが、どう解釈してみても解けない謎が残ります。そんなもどかしさも、Tanの創造する世界とそっくりです。
「変な夢」の感覚をさらに強めるのがShaun Tanのイラストです。
grandpa’s storyで新婚ほやほやの祖父母が旅立つ風景には、地面に半ば埋もれた家や家の半分ほどの巨大なテディベア、山のてっぺんに漂着している船、など奇妙なものが当たり前のように隠れています。ひきつづく8ページにわたるイラストに文章がないのも、Grandpaがフラストレーションたっぷりに語ったように「...In fact, the more I tell you, the less you will actually understand...」の感覚を見事に表現しています。
短編だけでなく、コラージュ形式のDistant Rainという詩のような作品もあります。イマジネーションをかきたてるこの作品は私が特に気に入った作品です。
学校や図書館では小学校高学年以上のヤングアダルトに仕分けされていますが、ひょっとしたら大人のほうが楽しめるのではないか、と思った芸術的な作品です。
●読みやすさ ★★★★☆
ネイティブであれば小学校高学年から読めるレベルです。
詩的な作品ですから、すぐに状況が理解できない場合もあるかもしれませんが、イラストが助けてくれるでしょう。もともと夢のようにはっきりしない作品なので「明確な理解」を目標にしないことです。
●アダルト度 ★☆☆☆☆
小学生に安心して読ませることができる作品です。
低学年だとイラストのイメージが怖い可能性もありますが、それはその子の感受性次第なので身近な大人が判断してください。
●Shaun Tanの他の作品
The Arrival
最近のコメント