Deborah Heiligman
272ページ
Henry Holt Book
2008/12/23
歴史ノンフィクション/伝記/中学生から高校生向け/ヤングアダルト
チャールズ・ダーウィンが生まれたのは1809年、そして彼が種の起原(On the Origin of Species)を出版したのは1859年11月でした。昨年2009年はダーウィンの誕生200年と種の起原出版150周年を記念した多くの展示や出版が相次ぎました。
Charles and Emmaもそういった本の一つですが、妻のエマとの関係を通じてチャールズ・ダーウィンの人となりを描いているところが精彩を放っています。副題に「Darwin’s Leap of Faith」とあるように、進化論とキリスト教との間で彼が体験した葛藤も本書の重要なテーマです。
チャールズは科学者の典型で何事にも論理的なアプローチする癖があったようです。結婚もその例外ではなく、チャールズは後世有名になった結婚リスト(下記の写真)を作っています。紙の左上にMarry、右上にNot
Marryと書いてありますよね。それぞれの下にあるのが結婚のメリットとデメリットを箇条書きにしたものです。
Not Marryの例のひとつは”Freedom to go where one liked”です。結婚すると「ビーグル号」での航海のような冒険ができなくなることを悩んでいるのですね。これは現代の男性にも通じるリストですが、決して尊大さの現れではなく、彼の論理的思考を象徴している微笑ましいエピソードです。
チャールズとエマは 仲が良い従兄妹同士でしたが、チャールズは論理的(かつ突拍子もない)思考によりエマと結婚するのが最も良いことだという結論に達するまで彼女と結婚することなんか考えていませんでした。決めたとなると、論理的な行動はプロポーズです。ところが、プロポーズした側と受けた側の反応が傑作です。私がつい吹き出した部分ですから、ぜひ実際に読んでいただきたいと思います。大真面目に結婚のメリット・デメリットリストを作ったくせに、婚約してからエマにメロメロに恋し、結婚後は当時の男性としては非常に珍しい愛妻家で子煩悩なお父さんになってしまったというのは、偉大な科学者の意外な実像です。
この本はチャールズとエマの特別な関係に焦点をあてています。ウエッジウッド創業者の孫である2人は非常にリベラルで知的な家庭(Wedgwood家は奴隷制度に反対だった)で育ち、エマは女性としては当時稀な読書家でした。彼女には自分の教育を活かして何かを成し遂げたい、という野心はありませんでしたが、チャールズはエマの才能を尊敬し、出版前に必ず自分の書物に対する意見を求めています。時代の先を行く頭脳を持った科学者が妻の意見を重視したことからもエマの知性がうかがわれます。それだけでなく、「種の起原」の出版に関するチャールズの葛藤にはエマの信仰心が大きな部分を占めています。信仰を重視しない論理的な父に育てられたチャールズはキリスト教の教えに対して疑問を抱いてきましたが、愛する妻のエマは敬虔なクリスチャンです。エマは、キリスト教を信じないチャールズが死後自分とは別の場所(無神論者は地獄に行くという教えだった)に行ってしまい二度と会えなくなることを悩み、何度もチャールズを説得しようとします。チャールズはそんな妻を厭わしく思うどころか、エマの信仰心に反するような「種の起原」を彼女の視点で何度も見直しています。この2人の関係は、男性から見ても女性から見ても羨ましく思えること間違いなしです。
児童書とはいえ中学生から高校生が対象のしっかりしたノンフィクションなので、日本人の大人が読むのにはぴったりの作品です。
National Book Award 最終候補作
Printz賞受賞作
YALSA-ALA賞 ヤングアダルトノンフィクション部門 受賞作
●読みやすさ ★★★☆☆通常米国の伝記作品はやたら長くて、忍耐力が要ります。けれども(一応)児童書の本作品は、大人が楽しめる読み応えある内容ですが、ページ数が少なくて容易に読み切ることができます。それゆえ、日本人の大人におすすめの伝記です。
●アダルト度 ★☆☆☆☆ちょっとしたラブシーンらしきものとそれをチャールズが分析してるところがありますが、小学校高学年から読んでも大丈夫でしょう。
●科学ドキュメンタリー番組NOVAによる史実に基づいたダーウィンとエマの物語
無料ビデオ Darwin’s Darkest Hour(地域により観られないかもしれませんが、米国内であれば全編無料で観ることができます)
ダーウィンに関するNOVAのサイト:ダーウィンと進化論に関するいろいろな参考資料も読むことができます。
最近のコメント