著者:Heather Terrell
ハードカバー: 288ページ
出版社: Soho Teen
ISBN-10: 1616951966
発売日: 2013/10/29
適正年齢:PG12(中学生以上)、The Hunger Gamesのようなバイオレンスはない。
難易度:中級レベル(高校英語をマスターしたレベル)、造語は多いが平易な英語
ジャンル:YAファンタジー
キーワード:ディストピア/宗教/ロマンス
ガジェットを使った娯楽で退廃的になった人類に怒りを覚えた神は、250年前に洪水を起こして人間を滅ぼした。神の教えに従う選ばれた少数の人々のみが生き延びたのが氷に包まれた世界、New Northである。少なくとも、それがNew Northの人々が信じている「真実」である。New Northは、聖書のようなLexの厳格なルールに従う社会であり、指導者の立場にある者たちはArcheonと呼ばれる。少年が成人するときの重要な儀式が、このArcheonを決める「試験(Testing)」である。
New Northは、男女の役割が非常に厳密な世界でもある。最高指導者Chief Archeonの娘Evaも、良妻賢母になる教育しか受けていなかったが、双子の兄Eamonがトレーニング中に事故で死亡し、自分が代わりにTestingに挑むことを決意する。周囲の者は反対するが、女の参加を禁じるルールがLexに記されていなかったために、参加を許される。
5月末のBook Expoでは各出版社がYAファンタジーに力を入れているのが印象的だった。本書もそのひとつで、ARCをいただき、知り合ったバーンズ&ノーブルの書店員さんとも読み比べた。
本の情報に”For fans of Game of Thrones and The Hunger Games”とあるが、これはどうかと思う。Game of Thrones との共通性があるとしたら、それはNorthの寒い環境くらいである。Game of Thronesのファンが読んだら「騙された!」と怒るだろう。また、The Hunger Gamesとの共通点は、ディストピア、若者が危険な状況で競争する、女性主人公が自分よりも肉体的にアドバンテージがある少年たちと競う、といった部分であり、受ける印象は異なる。
というよりも、本書はファンタジーやYAファンタジーをあまり読んだことがない人、上記の2作のバイオレンスが苦手な人、バイオレンスがあまりYAファンタジーを選びたい人向きである。
聖書のようなLexに書かれていることを文字通り真実として受け入れる人々の単純さや、Appleやシャネルを悪の象徴として伝えている未来は、現代の宗教原理主義と共通している。その皮肉さには笑えるが、本格的なファンタジーを読み慣れている者は「こんなに単純な世界観をファンタジーと呼ぶな!」と怒るだろうし、YAファンタジーを沢山読んでいる読者にはデジャヴ感が強すぎる。つまり、先が読めすぎてしまうのがつまらない。
でも、これまで読んだことがない読者には、凍りついた世界でのTestingのシーンや、ちょっとしたロマンスを楽しめる新ファンタジーである。この巻ではTestingの結果は出るが、新たに深い謎が生まれる。たぶん、他のYAファンタジーと同様に三部作になるだろう。
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