1)本の内容をしっかり理解できる年齢
アメリカの小学校で1年生の読書指導のボランティアをしているときに気づいたことがある。
文字は読めるが内容を理解していない(楽しんでいない)子どもが多いということだった。100%と言ってよいほどアジア系の子である。
親は「うちの子は『小学校5年生レベル』が読める」と自慢するのだが、本人に内容を尋ねると状況を把握していなかったり、誤解していたりする。小学校5年生であれば笑い転げてしまう内容なのに「ちっとも面白くない」と言う。
単語の意味を暗唱できる子であっても、小学校1年生の5歳では、「可笑しい」と感じるための体験がないのだから、当然なのである。
ここでの「内容を理解できる」とは、本の真価を理解できる体験や学習を積み重ねている、ということである。また、本に描かれている情動を理解できるほど脳が発達しているかどうかも非常に重要なポイントである。
ホルモンによって情動が揺れ動く思春期を体験していない小学生が高校生向けのヤングアダルト(YA)青春小説を読んでも、主人公たちの気持ちは分からないし、思春期に対して奇妙なイメージを抱いてしまうことになる。自殺などの深刻なテーマはさらに理解できないし、危険でもある。
自分を直接取り囲む世界にようやく馴染みかけているときに、いきなり広い世界に関わる本を読んでも理解できないし、ためにはならない。土台なしに家を建てても崩れるだけである。
子どもに本を選んでやるときには、ぜひ注意していただきたい点である。
2)その本を「面白い」「興味深い」と思うために最適の年齢
3〜4歳の子どもに本を読んでやると、思いがけない場所で笑われ、「もう一度、そこを読んで!」とせがまれることがある。
大人の私にとってはつまらないことでも、この年齢には可笑しくてたまらないのだ。
小学校低学年向けの本はその年齢の子どもにとって面白いように書かれているし、ヤングアダルト(YA)は思春期の若者が共感を覚える内容になっている。
性的な表現やバイオレンスがなくても、結婚した夫婦の心理的葛藤など大人でないと分からないし、面白くない。そういう内容のものは「成人向け」としているが、たとえそういう本でも、高校生が読んで想像できるようなものや、大学を卒業するまでに読んでもらいたいモダンクラシックについては「高校生以上」としている。
3)性的表現やバイオレンス
子どもの脳は(高校生であっても)まだ発達しきっていない。大人の脳とは異なるのである。
多くの心理学者が説くように、幼い子どもには、まず「この世界は楽しく、安全なものである」という肯定的なメッセージを送るのが重要だと思うのだ。大人の都合で年齢に不適切な本を押し付けても、害があるだけで得るものはない。それについてエッセイを書いたので参考にしていただきたい。
子どもにとって同様に重要なのが「遊び」である(それについても多くの文献がある)。
その年齢だからこそ楽しめることをじっくり楽しませてやるためにも、(私自身が子育てした体験からも)中学生くらいまでは、極めて残酷な表現や、際どい描写がある性的なものは避けたほうがよいと信じている。
ただし、性やバイオレンスについてまったく触れるな、ということではない。
アメリカの児童書は、その年齢に適した性や家族関係や戦争などリアルな世界の情報を少しずつ積み上げてゆけるものが揃っている。
『ジャンル別 洋書ベスト500 』ではそれらを考慮して本を選んだが、発達に大きな個人差が出る思春期のレイティングには悩んだ。中学生になったばかりの12歳には向かないが、14歳では読んでおいて欲しい内容のものもあるからだ。
悩んだあげくに参考としてのレーティングをつけたが、後は、わが子をよく知る親に選んでいただきたい。
また、高校生向けのヤングアダルト(YA)には、一般の「成人向け」より性的表現やバイオレンスが強い作品がけっこうある。これらを「成人向け」にしなかったのは、読者の対象が高校生だからである。PG15+(アダルト/バイオレンス)を作ったのは、そのためである。成人向けに書かれたものでも、高校生が読んで面白いだろうと思う作品はこれに含めた。
R(成人向け)は、性的表現がないか、あっても詳細にわたる表現がなく、あっさりと触れられているもの。R(アダルト/バイオレンス)とR+(アダルト/バイオレンス)は性的表現や暴力の描写の詳細さを特徴としている作品であり、+はそれがさらに強いものである。 これは筆者の主観であり、読む人によっては評価が異なるかもしれない。
...これらが完璧だとは思っておりませんので、これからも皆様のご意見を取り入れつつ、多くの方々の役に立つものにしてゆきたいと思っています。よろしくお願いいたします。
*お知らせ
第1刷では、校正のための時間が少なかったためにタイポや校正漏れなどがありました。深くお詫びいたします。
第2刷では、それらの修正に加え、適正年齢を再考して変更したものがあります。
詳しい訂正の内容は右のファイルをどうぞ。 『洋書ベスト500』第1刷修正箇所をダウンロード
変更した「適正年齢」の説明です。
●多くのノンフィクションを「PG12(中学生以上)→PG15(高校生以上)」に変更した理由
最初にこれらをPG12にしたのは、まず表現に問題がなく、私自身がこういった作品を中学生のときに読んでいたからだった。しかし、大人になって読み返し、「こういう内容だったのか!」と驚いたことを思い出した。中学生で読んだことに満足してしまったために、もっと内容が理解できたかもしれない高校や大学時代に読まなかったのである。 中学生でも分かる子はいるかもしれないが、それは稀だろう。 これらの本は、出会いがやや遅いほうが理解してもらえると思い、PG15に変更した。
●NutureSchockを「PG15(高校生以上)→PG12(中学生以上)」にした理由。
教育や子育てに関する内容であり、親だけでなく子どもが学べるところもある。そこで、内容が理解でき始める中学生にも読むチャンスを与えたいと思った。
●Jasper Jonesを「PG12(中学生以上)→PG15(高校生以上)」にした理由。
主人公が13歳なのでPG12にしたが、取り扱っているテーマが深刻なので、それを消化するには12歳では若すぎる。中学校高学年の14歳くらいならよいが、それでは中途半端なレイティングになるので15にした。わが子をよく知る親に決めていただきたい。
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