著者:Steve Sheinkin
ペーパーバック 272ページ
出版社:Flash Point
出版日:2012年9月
ジャンル:児童書(小学校高学年から中学生)/ノンフィクション/歴史/戦争
2012年 全米図書賞最終候補、2012年ワシントンポスト紙 最優秀児童書、2013年ニューベリー賞オナー賞受賞作
第二次世界大戦が遠い記憶になってしまっているアメリカでは、若者も子どもも「原爆」についてほとんど知らない。
以前ご紹介した「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子さんの話を伝える本は、多くの小学校で紹介されているようだが、第二次世界大戦や原爆の歴史について学校で学ぶ機会はほとんどないのだ。
本書はアメリカの小学校高学年から中学生を対象に「原爆」に関する歴史を教えるノンフィクションである。第二次世界大戦中のドイツ、ソ連、日本、アメリカの国際関係、戦争に至った経過、原爆開発競争、原爆を開発した科学者と落としたパイロットの後悔、トルーマン大統領の政治的な計算、原爆の秘密を盗もうとするソ連の策略など包括的に描いている。
おすすめする理由
本書をお勧めする最大の理由は、アメリカ人がどのように原爆の歴史を子どもに伝えようとしているのかを知る機会になるからです。小学校高学年でも読めるように簡単にしてありますので、英語にあまり自信がない方でも読むことができます。
加藤陽子さんの『それでも日本人は「戦争」を選んだ』をご紹介したときにも書いたことですが、日本人は「被害者」として原爆や戦争の歴史を捉えています。そのために、視点が非常に狭いままでいることを選ぶ傾向がありますし、対話が感情論になりがちです。自分たちが加害者の立場であると考えるのは、苦痛だからかもしれません。
けれども、原爆を落とされた被害者の日本も、アメリカ、ドイツ、ソ連と同様に原子爆弾の開発競争には加わっていたのです。最初に製造に成功したのがアメリカだけだというだけで、別の国が先に開発していたら、他国に対して使わなかったという保証はどこにもありません。当時のそれぞれの国の戦闘方法から推察すれば、たぶん使っていたでしょう。
国際平和を維持する積極的な役割を果たすためには、私たちも歴史を客観的に知る必要があるのです。反論するにしても、感情論ではなく、国際的に共有され、信頼されている資料を使って論理的に説得しなければならないのです。誰でもなく、私自身の体験から、日本人はもっとその訓練をするべきだと私は思っているのです。
著者が参考にした多くの資料が末尾に載っていますので、本書に不満がある人は、ぜひ元情報を読み、自分なりの結論を導き出して欲しいと思います。そういう読み方を学ぶところにも、英語の本を読めるようになる利点があるのです。
本書で気になったのは、原爆投下に至ったアメリカ国内での状況や原爆の被害の表現が簡単で軽すぎることです。けれども、小学生が対象なので仕方がないでしょう。
読みやすさ <初級レベル>
ネイティブの小学校高学年をターゲットに書かれた本なので、簡単な表現しか使われていません。文章の構成も単純で、日本の高校英語のレベルで十分理解できるものです。
適正年齢
小学校高学年以上
Kazさん、こんにちは。
歴史って本当にそうですよね。語る人の背景によってまったく異なるものになります。
ですから、いろんな視点を知るのは大切ですよね。おっしゃるとおり、過去の善悪ではなく、将来の平和のために語り継ぐことをすすめたいです。
相手の過去を責める態度だと、ぜったいに話し合いはできませんものね。
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2013/03/24 06:04
広島出身なので、この類の本には思わず反応してしまいました。近いうちに図書館から借りて読んでみます。
私事ですが、数年前にカレッジに行っていた時、(その時は自覚が無かったけれど)大胆にも原爆のトピックを英語とスピーチのクラスで使いました。英語クラスのペーパーは先生が読んだだけですが、リサーチ時に、日本とは全く違うアメリカの見解をいろんな本で読んで、改めて勉強になりました。歴史的事実は一つであれ、語る人と国によって見解が変わりますものね。歴史というものはそういうものだから、誰が書いているのか注意して読むようにしています。それから少し後のスピーチの時は、原爆を世界で一番に開発し、世界唯一の使用国として、また世界を何度も破壊できるほどの核爆弾を保持する国として、世界平和のためにどういう貢献ができるか、とアメリカ人の立場を強調する事に専念しました。
過去の善悪ではなく、将来の平和ために、原爆については語り次がれて欲しいです。
投稿情報: kaz | 2013/03/23 18:38