著者:David Nicholls
ペーパーバック448ページ
出版社: Vintage
出版日:2009年8月
ジャンル:ラブストーリー/文芸小説/人生/泣ける本/男性向けロマンス
男性の立場からも、女性の立場からも、男女の友情と恋は複雑なものである。
上流階級のプレイボーイDexterとヨークシャーの中流家庭で育った勉強家のEmmaは、同じ大学の学生だが接点がなかった。ふたりは卒業式の夜に出会い、特別な時間を共有するが、翌日には別々の人生に足を踏み出した。卒業式の1988年7月15日から、毎年同じ日のDexterとEmmaの1日を追う物語。
最初の出会いの後、ふたりは手紙を通して仲良くなり、いつしか親友になる。Dexterは、さほど努力もせずにテレビ番組の有名な司会者になるが、Emmaは食べて行くためのウエイトレスの仕事から抜け出せないでいる。酒、ドラッグ、女に溺れて思い上がっているDexterにうんざりしたEmmaは彼との連絡を断つが、それでもふたりは互いのことを忘れることができない。ふたりの人生には何度も変化が訪れる。Dexterは仕事に行き詰まり、Emmaは売れっ子の児童書作家になる。それぞれに何人かの恋人や伴侶ができるが、常互いのことが頭から離れないのだ。
DexterとEmmaは相手なしには生きられないほどの親友だが、恋人になることを何年も避け続ける。この微妙な関係が本小説の醍醐味である。
人物描写や心理が飾り気なくリアルなのが良いところだが、Dexterがあまりにも自己中心的で辟易する。逆に美人でユーモアのセンスがあるEmmaは、いつまでたっても成長しないDexterを寛容に受け止める理想的な女性である。こういったところは、女性向けロマンス小説の逆である。女性より男性読者に人気があるのはそのためだろう。
私が個人的に興味深く思ったのは、イギリスの男性作家とアメリカの男性作家が描く男女の差である。
Nick Hornbyもそうだが、イギリス男性が描く男性は、幼稚で、自己憐憫が強く、甘えん坊なのである。アメリカの男性作家が描く男性は、自己中心的な場合でも、タフで、自己憐憫が甘えではなく怒りのアクションに繫がる。女性のタイプも、イギリスの場合はEmmaのように優しくて包容力があることが多いが、アメリカの場合は、もっと独立心があって強気である。
ハッピーエンドや読後感が良い小説を求める読者にはおすすめできないが、イギリスとアメリカの差とか、リアルな若者の人生を追う小説としては面白い。
難易度:<上級レベル>
イギリス英語に慣れている人であれば、さほど難しいとは思わないだろう。
けれども、ふたりの会話のニュアンスを理解するためには、ある程度読み慣れている必要がある。
適正年齢:PG 15
高校生以上。
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