Ritta Williams-Garcia
ハードカバー: 224ページ
出版社: Amistad; 1版 (2010/2/1)
児童書/歴史(公民権運動)/9−12才/小学校高学年から中学生
2010年全米図書賞(National Book Awards)候補
時は1968年。11歳の黒人の少女Delphineは、父と祖母(Big Ma)の命で、妹のVonettaとFernを連れてアラバマの田舎町からカリフォルニア州オークランドに飛ぶ。
Delphineは母親に対して暖かい感情は抱いていなかったが、空港に現れた母親のCecilは彼女の想像を絶するほどの自己中心的な女性だった。姉妹がディズニーに行くために持参したお小遣いを巻き上げて夕飯を買いにゆかせ、仕事場に使っているキッチンには一歩も足を踏み込ませない。
そして、朝は子供たちを家から追い出す。
Cecilが娘たちに行くようにいいつけたのは、ブラックパンサーのセンターだった。新聞やテレビのニュースでDelphineたちが知っているブラックパンサーは、銃を持ち歩き、権力に暴力で対抗する恐ろしいグループだった。だが、センターに毎日通ううちに、先入観を少しずつ変えてゆく。
最初はクレイジーな夏だったが、終わったときには、多くのことが変わって見えた。
●ここが魅力!
洋書ファンクラブJrのもえさんと、「来年ニューベリー賞を取りそうな本を読もう」と読み始めた本のひとつです(もえさんの感想はこちらをどうぞ)
これを読んだ直後に全米図書賞の児童書部門の候補になり、「やはり」と思ったのでした。
まず時代が特別です。1968年は、マーティン・ルーサー・キング牧師が4月に暗殺され、キング牧師と公民権運動を支持してきたロバート・ケネディが6月に暗殺された年です。ガンジーの影響を受けたキング牧師は、非暴力運動を主張してきましたが、ブラックパンサーはそういった非暴力運動を奴隷的な態度と批判し、革命による黒人解放を主張していました。
けれども、この本は、そんな嵐のような公民権運動のまっただ中にあるオークランドを舞台にしているのに、「差別」を糾弾するような口調はなく、ユーモアに満ちていて、主人公のDelphineの心情にすんなりと入り込むことができます。
ふだん私たちは黒人が主人公の本をあまり読むことがありませんし、読んでも、シリアスすぎるものが多いのですが、これは自然と彼らの気持ちに入り込める良い本です。
また、Cecilという人物の複雑さも私が気に入ったところです。児童書ですが、働く女性のほうが彼女には感情移入しそうです。
●読みやすさ 中程度〜やや簡単
文法的には簡単な本です。けれども、ある程度読み慣れていないと、黒人独自の言い回しやニュアンス、歴史的背景を理解するのが難しいかもしれません。
ワタナベさんのおすすめで読みました。
母親が突然逮捕されたあとの、子どもたちの毅然とした姿がいいですね。最初は集会参加を恐れていたDelphineが、逮捕を転機にアフリカ系アメリカ人の人権問題を一気に自分の問題にする展開にひきこまれました。
ピンク・パンサーのCrazy Kelvinに末の妹のFernが"What's wrong with this picture?"と絡まれるところは、最初、pictureが何をさすのかよく分かりませんでしたが、アフリカ系の少女が白人のお人形を持っていることにけちをつけたのですね。このことも、最後のFernのお手柄に生きてきて、胸におちました。
ただ、母親のCecileがどうしてかつて子どもたちをおいて出て行ったのか(姑との対立らしいけれど)、すっきりしないのがちょっと残念なところです。でも、賞を取りそうだというのがよくわかる、面白くてためになる、子どもたちの成長が胸に残る本だと思いました。
投稿情報: Kitayan63 | 2010/11/15 06:43