Terri Blackstock
336ページ(ペーパーバック)
Zondervan
2009年9月22日発売
クリスチャン・サスペンス/ミステリー
Barbaraは2年前に夫と死別し、インテリアデザイナーとして2人の子供を女手ひとつで育ててきた。息子のLanceは問題のない良い子だが、18歳の娘Emilyは父親の死後ドラッグ中毒になり、ハイになるために盗難までするようになっていた。Barbaraは最後の手段としてEmilyをドラッグリハビリセンターに送りこむことにする。センターのオーナーでInterventionist(カウンセラーのようなもの)のTrish MasseyがEmilyをセンターまで連れてゆくことになっていたが、空港の駐車場でTrishの死体が発見され、監視カメラには車から逃げるEmilyの姿が映っていた。
BarbaraはEmilyの弟Lanceとともに現地にかけつけるが、そこでEmilyが容疑者として手配されていることを知り、自分の手で解決しようとする。 Barbaraは警察の行動を信用せずに自分で危険な場所に乗り込んだりして警察の邪魔ばかりするが、担当刑事のKent Harlanは「強き母」であるBarbaraに同情して援助する。
●感想
「リハビリセンターに向かう途中でカウンセラーが殺害され、ドラッグ中毒のティーンエイジャーが行方不明になる」というサマリーと読者の評価の高さ(内容は読まなかったけれどそのときは全員★5だった)にてっきり本格派サスペンスだと期待して読み始めた私は、途中で「なんか変だ」と思い始めました。
★が5つのサスペンスにしては、すごく凡庸なんです。先が読めちゃうし、刑事の対応は「こんなの現実にはないよ〜」という感じ。「なぜ読者評価の平均が良かったのだろう?」とちゃんと読んでみてようやくInterventionが「クリスチャン・ミステリー」のジャンル本だということに気づきました。読む前に確かめないなんて、まったく間抜けな私です。
クリスチャン・ロマンスについては以前に書きましたが、実はまだ試したことがありません。せっかくですからこの機会に新しい分野を試してみることにしました。
通常のミステリーやサスペンスの分野であれば「まあまあ」の出来です。コージーミステリ程度の簡単なプロットで、私のAmazon.comの評価は★3つです。でも通常のサスペンスファンが★5つを与えるような傑作ではありません。
コージーミステリはプロットよりも登場人物の魅力で読ませるものですが、Interventionの主人公Barbaraには苛つくだけでした。
母の苦悩はわかりますが、同情心が薄れるほど独善的なのです。厳格でユーモアのセンスがなく、他人の欠陥にばかり気づく。 非合理的なことを思いつき、非合理的な行動を取り、 警察の業務を片っ端から妨害しておいて「わが子を思う母親の必死な戦い」みたいに正当化する。「私の育て方が悪かったから娘はこうなったに違いない」と健気なことを言うくせに、そのすぐ後で「私は神を信じて、子供には教会に通わせて、ちゃんと育ててきた良いクリスチャンだ」と自分をかばうことを忘れない。そして、刑事のKent Harlanが「あなたはいいお母さんだ」となぐさめてくれるのを待つ。
はっきりいって私が一番嫌いなタイプの女です。同性として友達にしたくないし、私が男なら絶対に恋人にはしない。
すべての現象に神の意思をこじつけようとするBarbaraのことを、てっきり私は「こういう息が詰まる母に育てられたから娘がかえって非行に走ったという設定なのだろう」と思い込んでいました。そして、母が最後に自分の愚かさに気づき、人間として成長するストーリーなのだろうと。ところがどっこい、大間違いでした。
刑事のHarlanは、プロとしての自分の能力をまったく信用せず妨害ばっかりするBarbaraに同情だけでなく恋しちゃって最後に神を信じるようになっちゃうし、自分のことしか考えたことがないわがまま娘のEmilyは、突如神を見いだして良い子になっちゃうのです。
そして、犯人は登場人物のうち唯一神に心を開かなかった無宗教の人。
サスペンスというより宗教のPRを読んだみたいで嫌な気分になってしまいました。
宗教が登場する本が嫌いなのではありません。
私の大好きな歴史ものでは宗教は重要な要素です。登場人物と神との関係なしにはドラマを語ることはできません。また、私の大好きな「All Creature Great and Small
」の作者James Herriotも神の存在を信じています。(動物には魂がないとするキリスト教の教えから)愛犬と天国で再会できないのではないかと苦悩する老女に、獣医のHerriotが「犬にも魂があり、あなたと同じ場所に行く」と安心させてあげるエピソードには、信者でない私も「そうだよ。犬も天国にゆけるよ」と頷いていました。
私が案じるのは、同一のジャンルしか読まない人がフィクションと現実を混同するようになることです。たとえばマイケル・クライトンが「Rising Sun 」を出版したとき、ここで描かれた日本企業と日本人の像を事実と混同し、ジャパンバッシングをする米国人が急増しました。いずこでも、自らの体験にルポなどの情報を併せて検証せず、娯楽小説から事実を学んだつもりになる人々のほうが多いのです。どこかで米国人はムスリムよりも無宗教者を信用しないという意識調査の結果を見ましたが、もしかするとこのような背景があるのかもしれません。
●読みやすさ ★★★☆☆
★4つに近い読みやすさです。理由のひとつは、クリスチャンジャンルの本にはスラングや罵り言葉が出てこないことです。だから出てくる単語はほとんど全部辞書で調べられるでしょう。
●アダルト度 ★☆☆☆☆
ドラッグ中毒という状況と誰かの親が子をレイプしたという間接的な話しがあるので一応★ひとつです。でも、残りは全部☆にして良いほどクリーンな内容です。刑事は罵り言葉を口にしないし、ドラッグ中毒のティーンエイジャーに性的な問題も出てこない。殺人もクリーン。現実とはちょっとかけ離れていると思いますが、性的な表現が気になる親には中学生でも安心して読ませることができる本でしょう。
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