著者:Jonathan Franzen
2001年9月
ジャンル:文芸小説/現代小説
かつて厳格な一家の主だったAlfredは最近パーキンソン病にかかり、混乱することが多くなっている。その妻のEnidは長年夫や子供たちのために自己犠牲を強いられてきたことを苦々しく思っている。夫婦の長男のGaryだけが結婚しているが心理的な問題を抱えており、真ん中のDeniseはレストランの有名シェフだが人間関係のゴタゴタから抜け出せないでいる。そして末っ子のChipはスキャンダルを起こして大学を辞めることになる。こんな状況でも、Enidは今年こそは子供たちを全員集めて昔ながらのクリスマスを祝うことを決意する。
夫がFranzen本人にサインしてもらったAdvance Reader’s Copyを出版前に入手していながら私がなかなか読めなかったいきさつについては以前のブログでお話ししました。
でもあまり気にしていなかったのは、自分でもこの本を気にいるとは予想していなかったからです。文芸評論家が絶賛し、オプラ・ウィンフリーが「Oprah’s Book Club」に選び、しかもAmazonの読者評価があまり良くない、と(私にとっての)悪条件が三拍子そろっているのですから。
その私が読む気を起こしたのは、フランゼンがオプラのブッククラブを断ったと知ったからです。オプラのブッククラブに選ばれると、それだけでミリオンセラーが確約されますが、出版社や作家がどんなに売り込んでも女王様(オプラ)は自分の気が向いたものしか読まないことで有名です。特にフランゼンの場合長年評論家の評価が高いにもかかわらずそれほど売れない作家でしたから、「ミリオンセラーのチャンスを蹴るなんてどんな変人なのか?」とがぜん興味がわいたわけです。
読み始めて、予想外の面白さに驚きました。
社会風刺といい人間描写といい、思い当たることばかりで何度も吹き出しました。また、才能あふれる表現力に「なんてうまいのだろう!」と何度も感嘆しました。
でもこれが「日本で売れるか?」とたずねられたら、私の正直な答えは「たぶんNo」だったでしょう。アメリカ人と文化に直接フラストレーションを覚えた経験がないと、救いのないハチャメチャな物語に感じるおそれがあるからです。
でも、高尚な純文学としてではなく、「渡る世間は鬼ばかり」(すみません表現が古くて)のアメリカ版だと思えば面白く読めると思います。
さて、この本はオプラのブッククラブを断ったためにかえって有名になり、結果的にはミリオンセラーになりました。昨年ボストンでフランゼンの講演を聴く機会に恵まれ、どんな「変人」なのかこの目で確かめたところ、「変人」というよりも「職人気質」のシャイで頑固な作家のようでした(この本の登場人物ではChipに一番近いかも)。彼の了承も得ずに勝手にオプラお墨付きのマーク(ピンクなのですよ)を本の表紙に印刷したのが、相当癇に障ったようで、「そんなことしてもらわなくても、けっこう売れているからお断りします」と拒否したようです。私は、オプラファンの(あまり知的でない)主婦が読んで「面白くないわ」とお門違いの文句を言うことを想像したのではないかと感じました。おしなべて男性にはオプラを見る女性への偏見があるようです。
彼の文芸エージェントが言うようにフランゼンは「writer's writer」なのかもしれません。つまり、彼の才能のすごさを最も理解できるのは作家仲間だということらしいのですが、主婦差別はやめてほしいと思います。
●ここが魅力!
フランゼンが知ったらたぶん怒ると思いますが、これは家族のドラマという点で文学的なアメリカ版「渡る世間は鬼ばかり」です。そう思って読むと、読みやすさが増します。
作家仲間や文芸評論家から非常に高く評価されている文章とはどのようなものかを体験するよい機会です。
●読みやすさ ★☆☆☆☆
★と★★の中間です。最初の取り付きにくさを乗り越えればあとは楽に読めるようになるでしょう。
●アダルト度 ★★★☆☆
それほどは出てこないのですが、ちょっとあからさまなセックスシーンがあります。高校生以上が対象ですが、高校生が読んでもおもしろくないテーマの本だと思います。私の娘はフランゼンの講演を聴いて本人に興味を抱いて読み始めましたが途中で「つまらない」とやめました。
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