著者:Laura Hillenbrand
ペーパーバック: 500ページ
出版社: Fourth Estate
ISBN-10: 0007378033
発売日: 2010/11
難易度:上級
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ヤングアダルト版
ハードカバー: 320ページ
出版社: Delacorte Press
ISBN-10: 0385742517
発売日: 2014/11/11
難易度:中級〜上級
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ジャンル:ノンフィクション(第二次世界大戦)
キーワード:サバイバル、捕虜
1920年代米国カリフォルニア州でイタリア移民の次男として育ったLouie Zamperiniは、近所で評判の悪ガキだった。両親や学校も諦めかけていたが、陸上競技に長けた兄の指導で中距離専門の走者として才能を発揮するようになる。1936年のベルリン・オリンピックに5000m走の選手として出場し、1940年のオリンピックで金メダルを狙ってトレーニングしていたが、第二次世界大戦の勃発でオリンピックが中止されてしまう。
この本はアメリカで大ヒットし、今年12月にはアンジェリーナ・ジョリーの監督で映画公開されます。
日本では「アメリカも悪いことをしたのに、一方的だ」とか「差別的だ」「反日」というネガティブな意見が多いようですが、私はそのようには感じませんでした。
これは、Louieという、イタリア系アメリカ人のサバイバル物語です。むろん、アメリカン・ヒーローの輝かしいサバイバルストーリーですから、心情がアメリカ寄りなのは事実です。けれども、私は政治的プロパガンダはまったく感じませんでした。日本を悪者にするための本ではありません。
欠陥があるとすれば、Louieという語り手が必ずしも信用できないことでしょう。もともと悪ガキで、小学生の頃からタバコを吸って酒を飲み、近所の家に泥棒に入っていたくらいの奔放さで、しかも目立ちたがりの性格です。「ここは、大風呂敷じゃないかな〜」という部分はいくつかあります。
アメリカにも、ちゃんとそれを差し引いて読んでいる読者はいます。
ところで、日本から一歩も出ずに、日本に住んでいても日本人以外の人とは知り合おうとせずに、ナチス・ドイツのユダヤ人虐待の本や映画を観て「ドイツ人は人間とは思えない非道な国民だ!」と憤慨し、「原爆を落とした米国は恐ろしい国だ」と怒るくせに、いざ戦争中の日本軍の行為になると、史実として示されても「ちゃんと調べていない」とか「ほかの国だってやっていた。日本だけではない」、「差別だ!」と過剰反応する人がいます。
それを目撃するたびに、私は純粋な怒りを覚えるのです。
歴史学者の加藤陽子先生の『それでも日本人は「戦争」を選んだ』にも、次のような記述があります。
「日本人はドイツ人にくらべて、第二次世界大戦に対する反省が少ない、とはよくいわれることです。真珠湾攻撃などの奇襲によって、日曜日の朝、まだ寝床に いたアメリカの若者を三千人規模で殺したことになるのですから、これ一つとっても大変な加害であることは明白です。」
「ドイツ軍の 捕虜となったアメリカ兵の死亡率は1.2%にすぎません。ところが、日本軍の捕虜になったアメリカ兵の死亡率は37.3%にのぼりました。これはやはり大 きい。日本軍の捕虜の扱いのひどさはやはり突出していたのではないか。」
ですから、この本に書いてある日本軍の捕虜の扱いは、決して嘘でも誇張ではないのです。
また、この本には、Louieに優しく接した日本人軍人のこともちゃんと書かれています。人種差別をするつもりの本なら、そんなことは書きません。そして、日本軍の軍人が残虐だったのは、そういう風に教えこまれたからではないかと示唆されています。
むしろ、私が本書を読んで感じたのは、「戦争は、敵国だけでなく、自国の国民を犠牲にする」というシンプルな事実です。
ナチス・ドイツでも、人を殺したくないのに、殺さないと自分が処刑されるという辛い立場に立たされたドイツ人は沢山いたのです。戦時中の日本にも、きっとそういう人が沢山いたことでしょう。
この本に書かれている暴力は、もしまた日本にそういう軍隊ができたら、国民そのものにまず向けられるものなのです。
過去の自分たちをしっかり見つめて、反省するのは、不要な陳謝でも、弱みを見せることでもありません。
自分たちがまた犠牲にならないための重要な行為なのです。
この本を読まずに、「反日だ」とか「差別だ」という日本人も、どこか別の国で「日本人は恐ろしい」という教育を受けただけで信じて憎む人とまったく変わりません。それもぜひ心得ていただきたいものです。
11月にはヤングアダルト版が出ます。
そちらのARCを読みましたが、写真も沢山あり、読みやすいです。
ぜひいろいろな本と合わせて読んでみていただきたいです。
Isaoさま
私も以前にメールをいただいたときのことを考えながら読みました。とっても素敵なご感想をありがとうございます。
私も、許しに変えた部分に深く考えこみました。
戦争について、両サイドの悲劇を知るのは大切ですよね。そういう意味で、クリント・イーストウッドの『硫黄島からの手紙』と"Flags of Our Fathers" 二つの映画が良かったですよね。
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2014/08/06 11:51
日本軍の捕虜となったアメリカ人の悲惨すぎる半生を描き切った重厚なノンフィクションでした。戦闘機の墜落、太平洋を漂流し飢えと戦い、友人の死、捕虜となり、看守からの壮絶な苛め、暴力、飢え、不衛生、病気、絶望、日本人軍人の愚行、行方不明の兵士の無事を信じて待つ家族の絶望、終戦後帰国し自由の身になれたのもつかの間、捕虜時の記憶に悩まされ、悪夢の連続、精神を病み、心身共に戦争前に戻ることなど決してないこと、が淡々と語られ目を背けたくなることが何度も出てきます。それでも読むことをやめることはできませんでした。
生きる希望を決して捨てない強い心は一体どこから来るのだろう。復讐の気持ちに取り憑かれ、消すことなどできない憎しみを、最後は許しに変えることができたのはなぜなのか。読了後にはしばらく考え込んでしまいました。勝者とか敗戦国とか、どの国が酷いとか、正義はどちらだとか、そんな捉え方で戦争を見てしまうことがいかに無意味なことなのかということを思い知らされました。
永遠の0を読んだ私が、由佳里さんに「太平洋戦争をアメリカ人の視点で描いたノンフィクションを紹介してくれませんか」というメールを出しました。そんな無礼な申し出に、由香里さんは見事に応えてくださいました。ほんとうにありがとうございました。
投稿情報: Isao_tkhs | 2014/08/06 10:24