著者:Robert Galbraith (J.K. Rowling)
ハードカバー:464ージ
出版社:Mulholland Books
発売日:2013年4月30日
難易度:上級レベル(ネイティブ英語スピーカーの普通レベル)
適正年齢:PG15(高校生以上) ジャンル:探偵小説/ハードボイルド
(今回から、『洋書ベスト500』の体裁にあわせた表示に変えます)
有名なロックスターの非嫡子Cormoran Strikeは、オックスフォード大学を中退して従軍し、アフガニスタンで片足を失って私立探偵になった。だが、クライアントに恵まれず、借金で首が回らない状況になっていた。そのうえ、15年もの間運命を狂わせてきた美貌の女性Charotteとついに別れ、住処も失う。
そんな絶望的な日に、Strikeのもとに派遣会社から新しい秘書Robinがやってくる。秘書などを雇う余裕がない彼が戸惑っているときに、新しいクライアントが訪れる。それは、少年時代に亡くなった親友の兄John Bristowで、妹の死の真相を突き止めて欲しいというのだ。Strikeの親友が亡くなった後に養子になった少女Lulaは黒人と白人のハーフで、スーパーモデルとして活躍していたのだが、ある日自宅のバルコニーから飛び降りて亡くなった。いっときは新聞をにぎわせた事件だったが、すでに自殺として落ち着いていた。だが、Johnは他殺だと強く信じていた。
本書は、ハリー・ポッターの著者J.K. Rowlingが偽名で出版したもので、英国のThe Sunday TimesのArts部門の編集者Richard Brooksが7月14日(日曜)にスクープした(そのいきさつは、洋書ニュースでどうぞ)。また、The Telegraphによると、それが判明する前には、プロの評価は高いものの、たった500冊しか売れていなかったらしい。その状況を考えると、作者がJ.K.Rowlingだと知らなかった出版社のOrionが「よく出来た作品だが、傑出していなかった」と却下したのも責められない。
もちろん、彼女の作品だとわかった今では、アマゾンで1位である。
私もその売上に加担したひとりなので、非難はできない。昨日このニュースを聞いてすぐにキンドルでダウンロードして読みはじめ、先ほどようやく読み終わった。
いくつか思ったことを書いてみる。
まず、The Casual Vacancyよりは、ずっと良い作品である。
探偵小説としても、決して悪くない。
主人公のCormoran Strikeとその秘書役のRobinの人物像も好感が抱ける。
雰囲気としては、アガサ・クリスティやルイーズ・ペニーに近いものがある。
ここまでは良いところだが、最初の3ヶ月で500冊しか売れなかった理由も理解できる。
展開が緩慢で、「次が知りたい!」というワクワクドキドキ感が少ない。面白くなるのは、40%を終えた頃である。
不要に長い(この内容であれば、半分のページ数で書けただろう)。
登場人物の誰にも感情移入ができない。情動が動かされない。
謎そのものに、どこかですでに読んだようなリサイクル感を覚える。
そして、最後のどんでん返しが、ミステリを読み慣れている者には驚きではない。「たぶんこういうエンディングだろうな」と予測ができてしまう。
先に書いたように、The Casual Vacancyよりは面白いし、読みやすい。そして、出来もいい。
だが、なぜか「続きを読みたい!」という感情をわき上がらせてくれないのである。一緒に泣き笑いできるところまで、登場人物と心が通じないのである。
シリーズものミステリとしては、それが一番致命的ではないかと思った。
コメント
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