Carol O’Connell
432ページ(ペーパーバック)
Jove
1999/8/1
ミステリ/心理スリラー
舞台は米国ニューヨーク州の北部にある寂れた村。そこには金持ちの子弟と並外れた知能の子供を集めた私立学校St. Ursula's Academyがある。クリスマスを目前にしてSt. Urshula'sに通う10歳の少女Sadie Greenとその親友のGwen Hubbleが誘拐される。
Gwenの母が副知事であるために、捜査にはBCI (Bureau of Criminal Investigation)やFBIが関わり、マスコミも押し寄せる。捜査にボランティアとして加わったのはこの村の精神科医Mortimer Crayの姪である心理学者の Ali Crayだ。過去の類似の犯罪から、Aliは犯人が小児性愛の連続殺人者だとみている。彼女は、犯人が少女たちを必ずペアで狙い、そのうち一人は真のターゲットをおびき寄せるための二次的目標、つまりJudas Childに過ぎないという仮説を立てる。Judas Childは真のターゲットをおびきよせる目的を達成したら殺され、真のターゲットはクリスマスの朝に殺されるというのだ。
村の若い警官 Rouge Kendallの双子の妹Susanが誘拐されたのもSt. Urshulaに通っていた10歳のときだった。Susanもクリスマスの朝に殺されたが、それは単独殺人であり、当時Susanが慕ってた村の若い神父 Paul Marieがすでに犯人として服役していた。
しかし、AliにはPaul Marieの無罪を信じる理由があるようだ。頬に引き攣れた傷を持つAliは謎めいた過去を引きずっているようだが、誰にもそれを打ち明けない。Aliと恋人関係にあったFBIのやり手捜査官Arnie Pyleにも、誘拐捜査以外に別の動機があるようだ。この事件は、RougeとAliにとっては、自分たちの人生を変えた過去との対決でもあった。
捜査官たちの捜査がもたつく間、Gwenは知恵を働かせてサバイバルの孤独な戦いを続けていた。
●ここが魅力!
Judas Childは、ブログ読者で「大宮盆栽村クロニクル」というノンフィクションをお書きになった宮田一さんからご推薦いただいたミステリです。宮田さんと私には「The Forgotten Garden」という共通の好みがあります。「The Forgotten Gardenを好きな方が勧めるミステリならまず間違いないだろう」という期待をまったく裏切らない優れた作品でした。
まず登場人物ひとりひとりが、丁寧に作り上げられています。
双子の妹を失って以来凡庸な人生を歩んでいるRouge の複雑な人間性、Ali Crayの傷が作り上げた彼女の性格と人間関係、Aliと彼女の頬の傷の謎に執着しつづけるArnieの隠れた優しさ、人を驚かせる才能にあふれたいたずらっ子のSadie、彼女に憧れている病的に無口な少年David、「患者の秘密を厳守する」という医師の倫理を優先して犯人をかばいつづけるMortimer Cray、そしてFBIやBCIの捜査官たちも、すべて存在感があります。
また、じめじめした土や落ち葉の匂いがページから漂ってきそうな文章力も素晴らしく、わざとスピードを落として読んだミステリでした。
日米ともにエンディングが納得できない読者がいるようですが、私はこのエンディングで十分納得しています。というより、このエンディングは私がなんとなく予期していたものでしたから、驚きも感じませんでした。
読後も余韻が長引くミステリです。
●読みやすさ ★★★☆☆
米国でもゆっくりしたペースに苛立つ読者がいるようですが、スピーディな展開を求める類いのミステリではありません。じっくり状況や人物の描写を楽しむべき本です。それを心得ていたら、さほど読みにくく感じないでしょう。
状況がよくわからなければ、焦らずにもう一度読み直してみることです。
●アダルト度 ★★☆☆☆
小児性愛の殺人者をテーマにしていますが、そういう場面の描写はありません。
ただし、子供が誘拐殺人されるというミステリですから子供向けではありません。
●次に買ってみようと考えているO’ConnellのKathy Malloryシリーズ
最近のコメント