Karl Iagnemma
2003年
純文学/短編集
作者のKarl Iagnemmaは、大学で機械工学を学び、マサチューセッツ工科大学の大学院でロボット工学を研究しながら短編を出版してきた「変り種」です。この短編集のタイトルになっている「On The Nature of Human Romantic Interaction」はParis Review Discovery Prize for best first fictionの受賞作で、評論家たちから絶賛を浴びました。
舞台はIagnemmaの体験を連想させる大学のキャンパスで、こんな風に始まります。
When students here can’t stand another minute, they get drunk and hurl themselves off the top floor of the Gehring building, the shortest building on campus.
ここでこの短編に惹かれるのは、この場面が想像できるような学生時代を送った人でしょう。
学生時代には誰でも慣れない恋の謎や不条理に悩みます。けれども、たいていの者はどこかでその不規則性を受け入れ、折り合いをつけ、サバイバルのコツを身に着けます。けれども、Iagnemmaの描く主人公は、普通の人であれば無条件に受け入れる恋愛の不条理さを、たとえば下の図のように数式で理解しようとします。恋のように不条理なものを論理的に把握せずにはいられない衝動が彼の悲劇なのです。
恋愛の対象の女性を生身の人間として理解できない不器用な理数系の主人公が、自分だけを愛してくれない恋人からコミットメントを得ようとしてあがく姿は、哀しいがゆえに滑稽なのですが、そこに美しささえ感じさせるのが作者の稀な才能といえるでしょう。この作品とはまったく異なる国で何十年も前に学生時代を過ごした私ですが、学生時代を思い出してセンチメンタルになりました。
昨年、ワークショップでIagnemmaがobsessionと呼べるほど精密な書き直しをすることを知りましたが、それが納得できるような短編集です。
●ここが魅力!
「これ以上改善することは不可能だ」というところまで何十回でも書き直すIagnemmaゆえに到達可能な研ぎ澄まされた文章です。優れた短編とはどういうものなのか、それを教えてくれる短編集です。
●読みやすさ ★★☆☆☆
速読でストーリーを追うことではこの本の良さを知ることはできません。1文ずつに含まれた意味を考える必要があるので、そういう意味では「読みやすい」とは言えないでしょう。けれども、決してわざと難解にしようとしているわけではありません。文章そのものは分かりやすいと思います。
●アダルト度 ★★★☆☆
セックスシーンはありますが、生々しさはありません。
コメント
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