著者: Gregory Maguire
初刊:1995年9月
ジャンル:純文学/ファンタジー/SF/社会風刺
「考える」ことを強要する読書体験を求める読者におすすめ
今は人気ミュージカル「Wicked」の原作者として有名なMaguireですが、それまではさほど有名ではない児童作家で、6年前まで私の娘が通っている小学校に創作を教えに来てくれていました。彼は茶目っ気がある人物で、教え方もちょっとWickedで可笑しいのです。子供たちはMaguireが自分たちと同じ視点で語ることを肌で感じ、すっかり彼に魅了されていました。
そのようなわけで、私がWickedを読んだのはずいぶん昔のことです。一緒にボランティアで企画に関わっていた先生方はニューヨーク市までミュージカルを観に行ったのですが、私は見逃しています。ただ、観た人の話から判断すると、相当トーンが異なるようです。原作は複雑で暗く、私は、「軽い気持ちでは読めない本だけれど、読み応えがある」という感想を抱きました。私がこの本に好感を抱いたのは、それまでにMaguireの社会観に触れていたからかもしれません。この本は、彼のように取り付きやすい外面にもかかわらず、中身が非常に複雑なのです。
まず、これは誰でも知っている「オズの魔法使い」をドロシーではなく、彼女が殺すことになったWickedな西の魔女Elphabaが主人公の物語です。これだけの説明だと「あら、面白そう」と軽く読めそうな気になりますが、そうはいきません。緑の肌と鋭い牙を持つ危険な赤ん坊のElphabaが学問好きでシリアスな少女に育ち、そしてアンダーグラウンドの革命家や動物の人権運動家になり、ついにWickedな統率者として死を迎えるまでの人生を、相当複雑な宗教・社会・政治的観点から描いています。簡単にElphabを善か悪のカテゴリーに入れることはできないので、それも読者にとってはチャレンジです。
この物語を嫌う読者の心情も容易に想像できます。
主人公のElphabaに同情を覚える読者はいるかもしれませんが、感情移入は困難です。また、読後に暖かい気分になれる「feel good」なストーリーでもありません。
けれども、もし私がこれを学生時代に読んでいたら、「これほどすばらしい本を読んだことはない」と言ったと思うのです。
ミュージカルの原作、という先入観で読むとがっかりするかもしれないので、それとは異なる作品として読んでいただきたいと思います。
●ここが魅力!
単純なハッピーエンドや勧善懲悪、倫理観を押し付ける作品、などに辟易している方にとっては非常に面白く感じる娯楽作品でしょう。
ゲイで、パートナーとともに多くの子供を外国から養子に迎えているMaguireだからこそ描ける複雑な社会観を感じます。ともかく、いろいろと考えさせられる本です。
●読みやすさ ★☆☆☆☆
ざっと読み飛ばすことはできませんし、読み飛ばすと良いところが失われます。
最初の展開がスローなので、入り込みにくく感じるかと思います。また、長編で、しかも登場人物が多く、名前も覚えにくいのが難点です。
ネイティブでも最後まで読みきることができずに投げ出す者がけっこういるようです。
●アダルト度 ★★★☆☆
セックスシーンはありますが、Twilightシリーズと比べるとさほどでもないという感じです。ただし、政治・宗教など複雑なコンセプトは小学生や中学生にはなかなか理解できないし、面白くもないと思います。高校生以上が対象です。
こんにちは、コニコさん。
Wickedの翻訳版は残念ながらあんまり読者の評価が良くないようですね。たぶん好き嫌いが分かれる作品なのだと思います。著者のMaguireもけっこう嫌がらせの手紙が来ると言っていました。アメリカでは宗教観がけっこう大きな摩擦の原因になりますから、それもあるようです。
ところで、コニコさんのブログで拙ブログをご紹介いただければとても嬉しいですどうぞ宜しくお願いします。
投稿情報: 渡辺 | 2009/02/23 16:08
こんばんは。また遊びにきました。
このミュージカルは日本でも劇団四季が上演中ですが、いまひとつ魅力を感じません。でもこちらで原作の感想を拝見して、面白そうだと思いました。英語が難しそうなので、翻訳があるか調べてみます。
遅くなりましたが、「ノーティアーズ」のレヴューを書きました。油絵やアクリル画も描かれるのですね。「ノーティアーズ」の裏扉に書いてあるのを見つけました。ものの描写が緻密なことも勝手に絵描の視線と納得した次第です。
それから、貴ブログを拙ブログで紹介させていただいてもいいでしょうか?これだけの洋書紹介は貴重です
投稿情報: コニコ | 2009/02/23 09:01