Scott Olson / Getty Images(MSNBCより抜粋)
2008年11月4日、12万5千人もの人々がシカゴのGrant Park に集まり、バラック・オバマの大統領選の勝利を祝った。
そこに集まったのは、黒人だけではない。黒人、白人、アジア人、ヒスパニック系アメリカ人、そして文化的背景がはっきりしない混血らしき人々が、ただ隣り合っているというだけで抱き合って涙を流し、喜びを共有している姿であった。
対照的に、アリゾナ州フェニックスに集まったマッケインの支持者たちは、カメラがとらえるかぎりでは100%が白人だった。
オバマの勝利を、保守派たちは「黒人の勝利」あるいは「国の社会主義化の象徴」と強調するふしがある。だが、彼らはマッケインの致命的な誤算と同様の誤解をしている。
オバマの勝利は、16年前のクリントンの勝利と同様に、アメリカ合衆国での世代交代を意味しているのである。
新しい世代は、他国に奪われてしまった古い産業を取り戻そうとはしない。対話を中心とした外交を重視し、軍事的介入は最終的手段と考える。アメリカ合衆国は、環境問題でリーダーシップを取るべきだと考える。そして、尊敬されるアメリカ合衆国をとりもどしたいと願う。そして、この世代の多くの若者たちは、肌の色が異なる友人との人間関係に慣れているので、オバマを「黒人」という別のカテゴリーでとらえることはない。偏見を培う環境で育っていない者にとって、オバマの肌の色はプラスでもマイナスでもないのである。
オバマの勝利は、この世代が自分たちの力で将来を築くことに目覚めたことを象徴しているのだ。
2002年から2003年にかけて、この世代を目覚めさせようとしたのがハワード・ディーンだった。イラク戦争に反対する若者と団塊の世代はどちらもコンピューターに慣れた層である。ディーンは、ネットで少額の資金を多くの人々から得、ミートアップというネットワークを使って草の根ボランティアを集めた。だが、まだ時代が成熟していなかったのだろう。彼は予備選で民主党の重鎮たちが推すジョン・ケリーに負けた。
2008年、黒人たちもそうだが、若者たちもようやく自分たちの力を信じ始めた。「自分は非力だから何をしても世界は変わりっこない」と思っていたマイノリティと若者がこの新しい世代を構成している。予備選でのヒラリー・クリントンの敗北も、実は世代交代を意味していると私は考える。
クリントンの選挙参謀たちの多くは、ビル・クリントンを支えた古くからの知り合いである。ビルが大統領になったときには、彼らはこれまでのしきたりをやぶる新鮮な若い世代だった。しかし、権力の一部として働き、民主党のゴッドファミリーの一員となってしまった今、彼らにはもう新鮮さはない。ヒラリーの悲劇は、古くからの友人を無視することができず、バラック・オバマのように活力に溢れた新しい才能を使うことができなかったことであろう。
オバマの勝利演説は、JFKの「my fellow Americans: ask not what your country can do for you - ask what you can do for your country」という有名な演説を思い起こさせた。ボランティアでオバマの選挙運動を行った若者たちは、自分の力がアメリカ合衆国だけでなく、世界状況に影響を与えられることを学んだ。このパワーは、彼らの人生観を変えたことだろう。
政治史研究家のドリス・カーンズグッドウィンが、オバマの勝利演説の後、MSNBCで感動に満ちた様子でこう言った。「(オバマの選挙活動と勝利のプロセスは)make politics honorable vocation again(政治をふたたび尊敬に値する職業にするであろう)」。
私は社会の出来事に無関心、無気力になっている日本の若者にもぜひこのパワーを感じてもらいたいものだと思った。
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