29日、マッケイン共和党大統領候補が副大統領候補にアラスカ州の44歳の女性知事サラ・ペイリンを選んだことを発表しました。
ペイリンの経歴は、美人コンテストのミス・ワシラ、ミス・アラスカの準優勝、
地方テレビのキャスター、PTA、町長、そして約1年半前にアラスカ州の知事に初当選、というものです。また、夫は漁師でプロのスノーモービル選手です。高校時代のボーイフレンドだった夫との間には5人の子供があります。キリスト教原理主義の彼女は、女性ながらレイプや近親相姦の結果の妊娠であっても中絶を違法にするべきだという極端なプロライフ派で、ヒラリー・クリントンとは正反対の立場にあります。NRAの会員でもあり、銃の規制には反対しています。ですが、夫婦ともに組合員であることを誇っているのはこれまで主流だった共和党とは異なるところです。
政界ではほぼ無名に近いペイリンをマッケインが選んだのは、失望と怒りから回復していないヒラリー・クリントンの支持者を呼び寄せるためです。それは、ペイリン自身のスピーチ(女性で初めての副大統領候補ジェラルディン・フェラーロ民主党元下院議員とヒラリー・クリントンの努力を褒め称えるもの)からも明らかですが、FOXニュースや共和党の政治コンサルタントが称えるようにすばらしい選択とは思えません。
彼女のスピーチから受けた印象は、「非常に頭の切れる、実行力ある女性」というものです。しかし、人口よりもトナカイの数のほうが多いアラスカ州以外のことには無関心で無知な人物が、72歳でしかも皮膚がんの経験があるマッケインにもし何かがあった場合、アメリカ合衆国の大統領という重要な任務を無事に遂行できるでしょうか?想像しただけで、ぞっとします。
もっと不思議なのは、この無謀な選択に対しておおっぴらに怒りを口にする共和党員が見あたらないことです。
どんな形であっても共和党が勝てばそれでよいのでしょうか?
近年の共和党は、新しい勢力に乗っ取られつつあるようです。
私が長年知る共和党員たちは、ジョージ・H・W・ブッシュ(父)のタイプです。
名門私立高校からアイビーリーグ大学に進み、ビジネスの世界で成功しているWASPたちです。特に信心深くもなく、中絶に関してはプロチョイスあるいは、「どちらでもかまわない」というもので、最も重視するのは合衆国と自分の階級の経済的安定です。彼らが最も忌み嫌うのが、自分の払った高額な税金を「怠け者の貧困階級」に無駄遣いされることで、教育や医療も国が国民の面倒をみる義務はなく、「自己責任」であるべきだと信じています。そこが福祉を重んじる民主党とはっきり異なる点です。企業の発展をさまたげ、株価を下げる「組合員」に対する嫌悪感も私のよく知る共和党員に共通するものです。
しかし、29日のマッケインとペイリンのスピーチは、石油会社に対する非難を含め、古くからのコアであるこれらの共和党員を無視して小さな田舎町に住む労働者階級のキリスト教原理主義に訴えかけるものでした。
ブッシュ政権に対する不満を抱えていた古くからの共和党グループが、票を集める力はあるものの自分たちの信念を無視するグループが勢力をのばしてゆくのを許すのか、あるいはマッケインとペイリンの失敗で共和党内の勢力を失うことを願うのか、そのあたりが私にとっては非常に興味のある点です。
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