Christopher Catellani
2003年4月
文芸小説/歴史(第二次世界大戦中のイタリア)
muse & marketplace特集第4回でご紹介するのは、主催の非営利団体Grub Streetの長年のスタッフ兼教師で、この企画の顔であるChristopher Catellaniです。(詳しくはCatellaniのサイトをどうぞ)。
昨年のmuse & marketplaceで人前であまり話さないことで知られるジョナサン・フランゼンがキーノート講演をしてくれたのはCatellaniのおかげなのです(その話はこちらを)。今年も総合的なディレクターとして忙しく飛び回っていました。私とは過去10年間に2、3度会った程度の知り合いなのに、初日に顔を見かけると満面の笑みで「よく来てくれましたね!ハグさせて」と歓迎してくれるところがさすが対人関係の天才だと思いました。Catellaniのチャーミングであたたかな性格は彼の作品にも反映しています。
本作品を「翻訳権がまだ売れていないすばらしい本」のリストに加えました(5/1/09)。
(あらすじ)
舞台は第二次世界大戦中のイタリアの小さな農村Santa Cecilia。17歳のVitoの父親は彼の姉2人だけを連れてアメリカに移住してしまい、最近は仕送りも途絶えている。痴呆が進む母親の面倒を看る思いやりある青年だが、同年齢の青年に比べると身体の成長も遅く振舞いも子供っぽい。徴兵で村にはほとんど適齢期の青年がいなくなってしまったのに、少女たちは道化者のVitoのことを恋愛対象とはみなしていない。村人たちも彼を「いい奴だけれど役立たず」と軽くみなしている。そのVitoが恋したのは、村で最も美しい少女Maddalenaだった。
努力を重ねて奇跡のようにMaddalenaの愛を勝ち取ったものの、イタリアが連合軍に寝返り、敵となったドイツ軍の撤退のルートにあるSanta Cecilia村は攻撃を受けるようになる。村人たちは安全な地に疎開するが、Vitoと母親は崩壊した村にとり残される。絶望的な状況でもVitoはMaddalenaの家族から夫としてふさわしい男と認められるためにあらゆる努力をするが、Maddalenaはカトリックの道徳と親への忠誠心に抗うことができない。
Beautiful!という表現がぴったりの作品です。
オリーブ林や土埃のたつ小道、砂利だらけの坂道をボロボロの自転車で顔を真っ赤にして登るやせっぽちの少年、そしてそれをじっと見つめている黄金の髪の少女、そんな光景が心に焼きつく、詩的で美しい文章です。
戦時中のドイツを描く作品は沢山ありますが、それらと読み比べると、イタリア人にとっての戦争はまったく異なるものであったことを感じます。イタリア系アメリカ人のCatellaniが描く当時の素朴なイタリア人の生活観やVitoのたゆまぬ情熱にすっかり魅了され、読後もオリーブ林に戻りたくなります。雰囲気や登場人物をじっくりと楽しみたい、切なくてほろ苦いラブストーリーです。
●読みやすさ ★★★☆☆
詩的で美しく、しかも簡潔な良文です。少し英語に慣れている人であれば、すんなりと入り込める読みやすい本です。
●アダルト度 ★★☆☆☆
性的なシーンはありますが、過激な表現はなく、多くのYA本よりもマイルドです。
●この本が気に入った方は戦後アメリカのイタリア系移民の生活を描く続編The Saint of Lost Thingsをどうぞ。三部作の完結編もすでに完成しているということですので、お楽しみに!
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