著者:Lily King
ハードカバー: 261ページ
出版社: Atlantic Monthly Pr
ISBN-10: 0802122558
発売日: 2014/6/3
適正年齡:15+(性的な話題あり)
難易度:上級レベル(ネイティブの普通レベル)
ジャンル:文芸小説/歴史小説(1920年代〜30年代のニューギニア)
キーワード:文化人類学、マーガレット・ミード(Margaret Mead)、グレゴリー・ベイトソン(Gregory Bateson)、『Coming of Age in Samoa(邦題:サモアの思春期)』
賞:2014年Kircus Prize賞受賞/ニューヨーク・タイムズ紙2014年 Top 10 Best Books など
第二次世界大戦までの欧米では、キリスト教(ことにプロテスタント)の教義に沿った男女の役割と性風習で他国の文化を判断するのが当たり前だった。男女同権という観念もなかった1928年にサモアの性風習を率直に語る『Coming of Age in Samoa(邦題:サモアの思春期)』を出版した女性文化人類学者マーガレット・ミード(Margaret Mead) は、一躍有名になり、同時に悪名高い存在にもなった。
研究でも物議を醸したが、Meadの人生も当時の女性にしてはドラマチックだった。三度も結婚し、コロンビア大学での師Ruth Benedict教授とは同性愛の噂が残っている。
Lily Kingの小説『Euphoria』は、Margaret Meadが二番目の夫のReo Fortuneと一緒にニューギニアのSepik Riverでフィールド研究をしているときに三番目の夫になるGregory Batesonと出会ったエピソードを元にした創作である。
家族の悲劇と鬱に悩まされていたイギリス人研究者のAndrew Bankson(Batesonがモデル)は、Mumbanyo族のフィールド調査から逃れて疲弊している若い夫婦NellとFen(MargaretとReoがモデル)に出会う。孤独だったBanksonは、“The Children of Kirakira”(Coming of Age in Samoaがモデル)という本を出版して名前が知られるようになったアメリカ人女性人類学者Nellとオーストラリア人の夫Fenの面倒をみるようになる。
夫婦と一緒にフィールド研究をするようになったBanksonは、Fenとも親しくなるが、Nellのユニークな頭脳に惹かれていく。妻の成功に対してFenが持つジャラシーと暴力にも気づくが、部外者として無力感にさいなまれるだけだった。
熱帯のジャングルのうだるような暑さと、外部の人間が知ることのできない静かな危険の兆候など、当時の文化人類学者が実際に体験したと思われる雰囲気が伝わってくる。そういった点で、Ann PatchettのState of Wonderを思い出した。
まだ外部にはほとんど知られていなかったニューギニア原住民の文化を学ぶために生命の危険をおかしてまで入りこんでいく文化人類学者の動機についても、Bankson, Nell, Fenの三人それぞれでまったく異なる。この三人の中で、揺るがぬ動機と研究方法のアイディアを持っているのがNellだ。そして、すべてに無力感を覚えていたBanksonにEuphoriaを考えさせたのも.......。私はふだんから「脳が一番セクシーな器官だ」と言っているが、BanksonがNellに惹かれる理由がまさにそれだ。
マーガレット・ミードの実話を元にしているけれども、その「歴史小説」ではなく、ストーリーはあくまで創作である。
カーカスレビュー賞(Kircus Prize)、The New England Book Award、ニューヨーク・タイムズ紙10ベストブックス、TIMEマガジン フィクション部門のトップ10、NPRのベストブック、パブリッシャーズ・ウィークリー誌ベストブックスなど多くの賞を取った作品。
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