著者:Karen Joy Fowler
ペーパーバック: 320ページ
出版社: Plume; Reprint版 (2014/2/25)
ISBN-10: 0142180823
発売日: 2013/5
適正年齡:PG14(中学校高学年以上、性的な話題やシーンはあるけれど露骨な描写はない)
難易度:上級レベル(文章はシンプルで読みやすいが、難解な単語が多く、しかも深い含みがある)
ジャンル:文芸小説/サスペンス/スペキュラティブ・フィクション
キーワード:家族関係、心理問題、動物実験、霊長類、歴史
賞: ブッカー賞候補(2014)ネビュラ賞候補(2013), PEN/Faulkner賞受賞(2014)
これを読まずして年は越せないで賞候補(2014)
大学生のRosemary Cookeには友だちもいないし、両親とも疎遠で、とても静かに生きている。
でも、昔はとてもお喋りな少女だったのだ。みんなが「うるさくて考えることができないから黙って!」と嫌がるような。
昔は農場がある大きな家に、両親と兄と姉、そして父親の研究所で働く大学院生たちと賑やかに暮らしていたのに、5歳になったときその世界がすっかり変わってしまったのだ。それについて、Rosemaryは語り始める。でも、最初からではなく、「真ん中から」。お喋りだったころ、心理学教授だった父がアドバイスしてくれたように……。
今年(2014年)ブッカー賞の候補になった本書は、書評やあらすじを前もって知らずに読んだほうがいい小説である。
なぜかというと、Cooke家の謎や、最初に読者が誤解していたRosemaryの性格やその理由が少しずつ明かされていく読書体験そのものが特別な作品だからだ。
語り手のRosemaryが物語を「真ん中から始める」という構造は、とても巧みだ。
全体に不思議な雰囲気の本だし、設定も現実離れしているように感じるかもしれないが、実話からヒントを得た作品である(ネタバレを避けるために下記は白字にした。興味がある人はカーソルで指定して読んでほしい)
1970年代、「動物がいかにして言語を獲得するか」というテーマでコロンビア大学の教授Herbert S. Terraceがチンパンジーを使った有名な動物実験を行った。有名な言語学者のノーム・チョムスキーの名前をもじって「Nim Chimpsky(ニム・チンプスキー)」と名付けられた赤ん坊のチンパンジーを人間の家族と一緒に育てたのである。人間に囲まれて育ったNimは、手話でコミュニケーションを取るようになったが、成長するにつれ凶暴になり、家庭で育てることができなくなった。温かい家庭と世話をしてくれる大学院生たちから切り離されてチンパンジーたちだけの研究所に送りこまれたNimは、60年といわれるチンパンジーの寿命をまっとうせずにたった26歳で死んだ。
かつてNimの世話をしていた学生は、「heartbreak(傷心)で死んだのだろう」と語った。
ブッカー賞候補だが、難解なことを誇りにする類の文芸小説ではない。
文章そのものはシンプルだが、含みが沢山あるので、読み慣れていない人は意図が理解できなかったり、見過ごしてしまうところが多いかもしれない。
謎を追うサスペンスでもあるが、自伝のような感じでもある。淡々と語られているが、まったく退屈しなかったので、ぜひお試しあれ。
Sparkyさん、
ちょうど日本からの帰国で忙しい最中でお返事遅れました。
せっかくですから「これ読ま」に横ヤリ参加してくださいね!
楽しみにしています。
投稿情報: 渡辺由佳里 | 2014/11/05 05:57
家族から離されたFernの気持ち(?)を思って切なくなったり、動物を使った研究や実験の描写に心が痛みながらも「絶対反対!」とは言えない自分を再認識したりしながら読みました。
難しかったです。ふだんは少々わからないところがあってもあまり気にせずに先に進むのですが、この本はなぜか引っかかってしまって同じところを二度、三度と読むことが多々ありました(それでもわからなかったところもありました)。それから、アメリカ事情やアメリカ文化に疎いのでピンと来ないところもありました。
でも、読んでよかったです。「これを読まずして年は越せないで賞」候補なんですね。これで少なくとも一つ読みましたから、安心して年が越せそうです(笑)。
投稿情報: Sparky | 2014/10/23 10:18