著者:Lauren Oliver
ハードカバー: 320ページ
出版社: Ecco
ISBN-10: 0062223194
発売日: 2014/9/23
適正年齢:R(成人向け、描写は露骨ではないが性的シーンあり)
難易度:上級レベル(詩的な文章なので洋書に慣れていない人には難しい)
ジャンル:文芸小説/ゴーストストーリー/心理スリラー
キーワード:幽霊屋敷/家族の秘密/家族ドラマ
隠匿していた富豪のRichard Walkerが死に、彼の葬式をするために元妻と子どもたちが昔暮らした家に戻ってきた。
Walker一家をいやいやながら迎えたのは、この屋敷に長年住む二人の幽霊AliceとSandraだ。
学校でのけ者にされているTrentonは、事故で死にかけて以来、自殺へのファンタジーを抱いている。実行しようと思っているときに不思議な少女が現れ、そのうえ、孤独な少女の幽霊も見る。
AliceとSandraに新しい幽霊が加わり、この屋敷に集まったすべての者が、目をそむけていた自分の「秘密」と対峙せざるを得なくなる。
ティーンだけでなく大人にも人気があるYA(ヤングアダルト)作家のLauren Oliverの新作(9月発売予定)である。(代表作はDelilum三部作)
YA分野での代表的存在なので、本書『Rooms』もYA本だと思って読み始めたのだが、途中で違うことに気付いた。幽霊も屋敷も出てくるが、典型的な「幽霊屋敷」のホラーストーリーでもない。
どちらかというと、Alice MunroやLorrie Mooreの短篇集を読んでいるような感覚の小説である(そこまでの完成度はないが)。Elizabeth Stroutの小説Olive Kitteridgeも思い起こさせる。
中身は「台所」「書斎」「地下室」といったパートに分かれていて、それぞれのパートには幽霊を含めた登場人物の視線での章がある。それぞれに他人には言わない「秘密」を抱えていて、それが心を蝕んでいるのである。多くの短篇集のように、悲劇的なのに滑稽な喜劇でもある。そして、愛せそうな登場人物が誰もいないのに、最後には受け入れている。
YAジャンル、特にロマンスファンタジー系には(ティーンの女の子の要求に応じる)ストーリー重視のものが多いが、Oliverの文章はそれらのものとは異なる。シカゴ大学(University of Chicago)卒で、その後ニューヨーク大学(NYU)で創作を学んだという経歴を見て納得した。これは、文芸小説のトレーニングを積んだ作家の書く文章である。そういう作家が文章のしっかりしたYAファンタジーを書くのは、ティーンの読者にとってもいいことだ。そして、Oliverのファンが、ファンタジーとは異なる分野に手をのばすチャンスを得るのもいいことだろう。
ただし、文芸小説としては、もう少し記憶に残る特別なものが欲しかった。
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