著者:Peter May
ペーパーバック: 432ページ
出版社: Quercus
ISBN-10: 1849163863
発売日: 2011(英国での発売日)、フランスでは2009
適正年齢:R(成人向け)
難易度:中級から上級(難しい単語はあるが、物語に入り込みやすいので読みやすい)
ジャンル:ミステリ
キーワード:スコットランド、ルイス島(アウター・ヘブリディーズ諸島)、Guga Hunt(カツオドリ猟)、切ない過去、男のロマン
シリーズ名:The Lewis Trilogy(英国ではすでに全巻刊行されているが、米国ではこれから)
スコットランドの北西部にあるルイス島(アウター・ヘブリディーズ諸島最大の島)で猟奇殺人が起きた。息子の死のショックで休職していたグラスゴーの刑事Fin Macleodは、上司から呼び出されてルイス島に派遣される。Finが手がけていたグラスゴーでの猟奇殺人に酷似しているだけでなく、Finがルイス島の出身だからだ。そのうえ、殺害されたのは、子どもの頃に自分を虐めた知り合いだった。
本書には、特に男性読者がぐっとくるツボがたくさんある。
舞台は全く異なるが、連想したのがJohn Hartの書くミステリだ。
辛い思い出のある故郷を後にしたのに、それを忘れきれずにいる男性主人公。故郷に残した切ない愛と苦々しい友情の思い出。男のワガママと女の許容……。そのすべてがロマンである。
それに加えて、The Blackhouseの場合には、ルイス島(ウィキペディアから引用した右の地図)の厳しい自然と荒々しい男たちの生き方も楽しめる。ことに、物語で重要な役割を果たすGuga Hunt(カツオドリ猟)の逸話がいい。
Gugaとはゲール語でのgannet(カツオドリ)のことである。海鳥の中では最大級で、かつてはルイス島の人々の重要な食料源だった。現在は保護種なので通常の猟は禁止されているが、数が増えてきていることと、ルイス島の貴重な文化保存のために、特例として一年に一度、2000匹までの猟が認められている。選ばれた男たちだけが船で文明から隔離されたgugaの繁殖地に行き、荒々しい自然の中で二週間ほどキャンプして猟をする。その描写も卓越だ。
本書The Blackhouseは、女性にとっての歴史ロマンス(ヒストリカル)のようなものではないかと思った。自分の生活からは切り離されている土地に入り込み、主人公になりきって感情の波乗りを楽しむのである。私は男性ではないが、とても楽しめた(男性も良いヒストリカル・ロマンスは楽しめると常に思っている)。
ところで、The Blackhouseには面白い経緯がある。
最初は英語で書かれたのに、英国の出版社が興味を示さなかったので、最初はフランスで翻訳版が出版されたのである。それが2009年のことで、2010年にフランスでCezam Prix Littéraire Inter CEの読者賞を受賞し、2011年にようやく英国で出版されたのだ。アメリカでは昨年2013年に刊行され、Barry賞を受賞した。賞を取るほど面白い作品なのに、最初に出版社から却下されているものは、けっこう多い。自費出版の作品の中にもそういうものがけっこうあるので、馬鹿にしてはならない。逆に大手出版社から出ている作品でもダメなものはたくさんある。
読み応えあるミステリを求めている人にお薦めの作品。
コメント
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