著者:Fiona Mcfarlane
ハードカバー: 241ページ
出版社: Faber & Faber
ISBN-10: 0865477736
発売日: 2013/10月(予定)
適正年齢:PG15(高校生以上)
難易度:上級レベル
ジャンル:現代小説/心理スリラー
キーワード:加齢、犯罪、マジックリアリズム
70代後半にさしかかったRuthは、夫と死に別れ、オーストラリアのさびれたビーチで独り住まいをしている。息子たち二人はときおり電話はしてくれるものの、なかなか訪問してはくれない。
ある夜、Ruthは自宅にトラの気配を感じて息子に電話をかける。そして、翌朝見知らぬ女Fridaが巨大なスーツケースを持って現れる。
最初のうちはいわゆるマジックリアリズム(magical realism)の作品かと思って期待していたのだが、途中で「どうやら心理スリラーらしいぞ」と思い、そちらに頭を切り替えた。だが、心理スリラーにしては、良い意味での「期待の裏切り」に欠けている。最初に「こうなるだろう」と思ったとおりに、どんどん嫌な感じになってゆくのである。そういう意味で、話題作なのに、楽しむことができなかった。
表現力があるし、ストーリーテラーとしての才能も感じる。だから、それなりに評価されるのは理解できるのだが、個人的に好きになれなかった。その理由のひとつを先に書いたが、もうひとつは、Ruthが白人で、Fridaが白人ではないエスニックグループに属しているという設定である。
(この後ネタバレなので、白字で書いています。読みたい人は範囲指定をして読んでください)
宣教者の両親と一緒にフィジーで子ども時代を過ごしたRuthがフィジーに対してメランコリックな愛着を抱いている部分は分かるが、Fridaのエスニックさ(実際はマオリ族と白人の混血だということが後で分かる)と犯罪の匂い、そしてそれを裏切らないところに問題を感じたのである。
アメリカでもそうだが、金持ちの病人や老人の介護をするのは低所得の白人ではない人種だというステレオタイプがある。そのステレオタイプと独居老人のアビューズの問題を結びつけるのは、たとえ小説とはいえ、読者の深層心理に大きな影響を与える。たとえば、日本経済が最高潮に達していた頃に出版されたマイケル・クライトンのRising Sunのおかげで、「日本人は狡猾で、信用ならない恐ろしい人種だ」という印象を持ってしまったアメリカ人読者が生まれた。一読者として、そういう匂いが嫌だったのだ。
誤解しないで欲しいが、Gone Girlなど良く描けている「嫌な感じの心理スリラー」は決して嫌いではない。もっと上手に嫌がらせて欲しかっただけである。
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