著者:Alice Munro
ペーパーバック: 336ページ
出版社: Vintage; Reprint版
ISBN-10: 0307743721
発売日: 2013/7/30(オリジナル2012/11)
適正年齢:PG15(高校生以上)
難易度:上級レベル(英語ネイティブの普通レベル)、ただし短編なので日本人には試しやすい。
ジャンル:短篇集/自伝的短編小説
キーワード:女性心理、人間関係、後悔、ジェラシー、許容、哀愁
文学賞:2013年ノーベル文学賞
短編の名手として近年ノーベル文学賞候補に名前があがっていたカナダ人の女流作家Alice Munro(アリス・マンロー)が、本日(2013年10月10日)ついに賞を受賞した。思想や政治的な要素が影響を与えることで知られるノーベル文学賞なので、思想に無関係の普通の女性の人生を描き続けてきたMunroが受賞したのは画期的なことである。(ただし、常に候補の上位に位置してきたので、意外ではない)
高校生のときから短編を発表してきたMunroの作品は、以前は抽象的なところがあったが、今回の『Dear Life』はずいぶん一般人にもわかりやすく、感情移入しやすくなっている。
「To Reach Japan」は、一見幸福で安定した結婚生活を送っている女性詩人のどこか満たされない思いと一瞬にしてそれが破壊される危うさを描いている。次の「Amundsen」では、狡猾な男に巧みに騙されたナイーブな女性の体験を何年もたって振り返ることに哀愁を覚える。
現在の年齢のせいかもしれないが、私が最も感情移入したのが、高齢にさしかかった女性が主人公の「In Sight of the Lake」と「Dolly」である。特にDollyでは、長年連れそった夫への信頼があるからこそ主人公が感じる苛立ちと安心感がよく理解できてニヤリとした。
Munroファンにとって一番うれしいのは、自伝的なフィクションの「The Eye」「Night」「Voices」「Dear Life」4作である。著者は私よりずっと前にカナダで生まれた女性なのだが、家族への複雑な心境や郷愁、特に「ほろ苦い」部分は国境を超えた普遍的なものだと感じた。
Munroは女性のさまざまな人生を描くことで有名だが、女性読者専用の作家と思い込む必要はない。男性読者は主人公に共感を覚えられないかもしれないが、実は女性読者にもよくあることなのだ。先入観を捨てれば、自分とは異なる人々の生き様が実に興味深く思えることだろう。そして、読後につい考えこんでしまうにちがいない。
マンローの初期の作品も素晴らしいが、マンロー初心者は抽象的でなくなってきた近年の作品から試すほうが良いかもしれない。
本書の邦訳版は今年12月に新潮社から刊行予定とのこと。
本書の前に出版された Hateship, Friendship, Courtship, Loveship, Marriageは邦訳版があるのでおすすめ。これよりも前の作品にも邦訳版はあるので、英語の本が読めない方も、ぜひお試しあれ。
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