著者:Jared Diamond
ペーパーバック(480ページ)
出版社:Norton & Company
発売日:1997年
ノンフィクション/歴史
ピューリッツアー賞受賞作(1998年)
旅が好きで、これまで50カ国近い異国を訪問している私は、それぞれの国の風習、考え方、生き方にとても興味があります。「なぜ、こうなったのだろう?」と考えるのも好きです。
そのうちに自然に気づくのは、アメリカ、オーストラリア、アフリカでヨーロッパ人が先住民を征服して文明を壊滅させてきたのに、その逆のケースがないということです。これについては、いろいろな説がこれまでにもありましたが、いずれにも問題があります。皆が納得できるような説はないのですが、ヨーロッパ人のほうが人種として優れているという偏見に満ちた説は未だに優勢です。
それを覆すほど説得力ある「地理的な要因」を説明したのが1997年に刊行された本書です。
私は先日ペルーでインカ帝国の遺跡を訪れ、高度な建築技術に圧倒されました。そして、これほど発展していたインカ帝国が、少数のスペイン人がもたらした銃、病原菌、鉄により短期間に崩壊したことに、あらためてショックを受けたのです。
そして、思い出したのが、本書のことです。アンデスの山々に遮られたインカ帝国の舞台に立つと、「なるほど、これがダイアモンドの語っていたことなのか」と実感できます。
本書について的外れな批判をする人をたまに見かけますが、自分でヨーロッパの農地とアンデス山脈や中南米のジャングルを歩いて比較してみるといいかもしれません。
もうひとつ本書について思い出したのが、侵略したスペイン人とインカ人の「情報の差」です。
侵略者の指揮官Pizarro自身は文盲でしたが、彼の文明には文字での情報伝達手段がありました。攻撃前に敵の情報を得て戦略を練ることができた侵略者に対して、侵略されるインカ人の支配階級はスペイン人についてまったく無知でした。無知であることさえ自覚がなかったので、侵略者の意図と能力を過小評価していたわけです。
そこで気になるのが、最近よく目にする「ガラパゴスでいいじゃないか」と外国からの情報や影響を無視して内向きになる日本人の意見です。最盛期の90年代前半に比べると経済は縮小していますが、日本はまだまだ住みやすい国です。ですから、日本のことだけを知り、日本の中だけにとどまって平和に生きれば、それでいいじゃないか、と思う人もいるでしょう。けれども、南アメリカ大陸であれほど威力を持っていたインカ帝国が少数のスペイン人によって壊滅した歴史は、島国の日本にとって忘れてはならない教訓だと思うのです。
ところで、ダイアモンドの新刊『The World Until Yesterday (昨日までの世界)』について日経BP社の柳瀬博一さんが切れ味よくご紹介されていますので、そちらもご覧下さい。
糸井重里さんとジャレド・ダイアモンド氏の対談も、本書をさらに興味深くしてくれますので、ぜひどうぞ。
●読みやすさ <中級レベル> ←新しい表示を試みています。
ネイティブの平均的レベルだが、その中では読みやすい。専門家ではなく、普通の読者を意識して書かれており、非常に読みやすく、理解しやすい良文です。
英語力よりも、この分野での日本語の知識と好奇心があるかどうかで読みやすさが異なると思います。
●おすすめの年齢 PG ←新しい表示を試みています
この分野に興味がある方でしたら、小学生からでもOKです。
コメント
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