ペーパーバック
出版社:Flux
Lament ISBN-10: 0738713708
Ballad
YA(ヤングアダルト)/ファンタジー/妖精/青春小説
11月6日発売の「ダ・ヴィンチ」12月号の特集で"翻訳され文庫本になっているパラノーマル・ロマンス"についてのアンケートを依頼されました。そこで、自分の好みというよりも、アメリカで良く売れている本をバランスよく推薦させていただきました。詳しくは雑誌をお読みいただきたいのですが、メインストリームではない「おすすめ作品」として、本ブログでもよくご紹介しているMaggie Stiefvaterの初期の作品Lamentを選びました。
マギー・スティーフベーターのGathering of Faerieに登場するのも、美しくて残酷な妖精です。
【Lamentのあらすじ】
16歳のDeirdre Mnaghanは、天賦の才能に恵まれたハープ奏者なのに、演奏前には緊張で吐く癖がある。その日もコンペティションの前にトイレで吐いていたところ、ゴージャスな青年Luke Dillonが現れて髪を持ちあげてくれる。この不思議な出会いと同じころから、Deirdre(Dee)の周りに四葉のクローバーが現れ、奇妙な人々が見えるようになる。そして、超能力までもが現れる。音楽の才能を引き出してくれるLukeに心惹かれるDeeだが、彼は秘密を隠している。しかも、とても危険な。
Deeの唯一の親友Jamesと祖母は妖精たちから彼女を守ろうとするが、彼らにも危険がふりかかる。そして、Deeは、苦しい選択を迫られる。
【Balladのあらすじ】
DeeとJamesは、音楽の才能がある生徒が集まるThornking-Ash音楽院からスカウトされて一緒に転校する。
だが、奨学金まで出してくれた寄宿制高校に入学してみると、Jamesが専門にしているバグパイプの部門はなく、教えてくれる教師もいない。
JamesはいいかげんにDeeへの片思いをやめようと思っているが、そう簡単にやめることもできないでいる。
学校生活にある種のフラストレーションを覚えていたJamesが出会ったのは、芸術家に望む才能を与えて魂を抜き取る妖精のNualaだった。
どんな芸術家でも抗うことができないほどの餌をちらつかせても簡単に断るJamesにNualaは驚き、怒り、そして興味を覚えてつきまとう。
妖精の恐ろしさを熟知しているJamesはNualaを避けていたが、しだいに二人は互いを理解するようになる。Nualaは妖精の中でも人間に最も近い最下層の存在で、永遠の命は持たず、ハロウィーンの夜にかがり火で焼け死に、まったく異なる者として生まれ変わる運命になっていた。
妖精の力が最大になるハロウィーンにむけて、Thornking-Ash音楽院で怪しい出来事が起こり始める。
妖精の世界と人間の世界を隔てていた防御壁が、ある理由で壊されそうになっていたのだ。
Deeへの複雑な心情と新しく育ちはじめているNualaへの思いの間で悩みつつ、Jamesは恐ろしい妖精の女王と闘わねばならない。
●ここが魅力!
雑誌の特集では「パラノーマル・ロマンス」のひとつとして推薦しましたが、厳密にはロマンスではなく「ファンタジー」の部類に入る作品でしょう。まず、スティーフベーターが作り出した妖精の世界と、アイルランドの音楽に魅力されます。
けれども、通常のロマンスのようにすべてが丸くはおさまりません。解決しない問題もあります。もやもや感も残ります。
Deeの言動に感情移入できない読者もいるでしょうが、Jamesが好きになることはお約束できます(笑)。ですから、Jamesが活躍するBalladのほうが読者には愛されているようです。
ふつうのロマンス本を期待して読む読者は、これら二作のすっきりしない感じに不満を抱くかもしれませんが、私はそこがマギー・スティーフベーターの作品の魅力だと思うのです。
そもそも、思春期の恋の身勝手さや片思いの辛さ、憤り、寂しさ、といった甘酸っぱさは、簡単に解決できるものではありません。「永遠の愛」にしても異なる世界に足を踏み込めば、すっかり変わってしまうのです。そういったどうにもならないことに、私たちは惹かれるのです。
現在のスティーフベーターの作品と比べると物足りなさや不満はありますが、それでも通常のYAファンタジーより遥かにレベルが高い作品です。特に文章力でその差が出ていると思います。
2013年には三部のRequiemが発売されるそうですから、そこですべての答えが出ることを期待しています。
●読みやすさ やや読みやすい
登場人物の声は、高校生のものですから、理解しやすく、入り込みやすいと思います。
●おすすめの年齢層
性的表現はキス程度です。中学校高学年以上。
コメント
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